整備された第十取水口近くの幹線水路。直径は4・5メートルある=3月16日、徳島県上板町第十新田

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 国が徳島県吉野川下流北岸への農業用水の供給を目的に1991年度から進めてきた巨大プロジェクト「国営吉野川下流域農地防災事業」の主要工事が、当初予定の2002年度から16年遅れて本年度末に完了する見通しとなった。用地買収の難航などで総事業費は当初の550億円から2・8倍の1562億円に膨らみ、「ずさんな事業」との批判がつきまとった。事業で整備された幹線水路と農地を結ぶ分水施設の整備は道半ばで、巨額投資に見合う整備効果をもたらすかは不透明。農業を取り巻く環境は変化しており、完成後も厳しい視線が注がれる状況に変わりはない。
 

 事業で吉野川の2カ所に設けられる取水口のうち、柿原取水口(阿波市)が2014年度に完成。現在は残る第十取水口(上板町)の整備を進めており、本年度末に完了する予定となった。

 総延長63・3キロに及ぶ幹線水路は昨年、板野町川端-鳴門市大麻町松村の約7キロが開通し、ほぼ完成した。柿原取水口からの水の供給が始まっている。

 しかし、柿原取水口から水が送られる阿波市から鳴門市までの幹線水路の計画受益面積3663ヘクタールのうち、水が届くようになった田畑は2191ヘクタールにとどまる。幹線水路から農地に水を引くのに必要な分水施設(配管や水路など)ができていない地域があるためだ。

 本年度末完成の第十取水口から水を取り込む別の幹線水路も同様で、早ければ19年度にも始まる試験通水の水が当初から届くのは、計画受益面積1555ヘクタールのうち、43・7%の680ヘクタールにすぎない。

 分水施設はほ場整備を伴うかどうかなど、進め方に違いはあるが、一般的に農地10アール当たり100万~300万円の整備費用がかかる。地元農家の負担金が必要になったり、近隣農家との合意形成が欠かせなかったりするため、整備は思うように進んでいない。鳴門市の農家の男性は「後継者がいない農家が多く、米価も安い。農家全てが事業への関心が高いわけではない」と言う。
 国は分水施設の整備が進まなければ十分な事業効果が得られないことから09年度に方針を変更。21年度までは国が地元負担分を拠出することにし、各地域に整備を促している。

 事業が遅れる間に肝心の農業が低迷。農林業センサスによると、2000~15年の15年間で流域3市5町の農家は26%減少した。1を超えると投資効果があるとされる費用便益比は「1・05」とぎりぎりの水準だ。

 国は事業の水質改善や塩害防止の効果で、水稲は約6%、レンコンやサツマイモは約15%収量が増えると試算する。だが、農家の減少が続く中、早期に分水施設の整備が進み、農家の利用が広がらなければ、巨額投資の効果はしぼむばかりだ。