『どうぶつのかお ならべてみた!』(ポプラ社)と『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)

 『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)が異例のミリオンセラーを記録し、活況を呈している児童書界。書籍不況が叫ばれる昨今、なぜこのような児童向けの図鑑が売れているのか? 本作の監修を担当した動物学者の今泉忠明氏と、同氏と共に新作『どうぶつのかお ならべてみた!』(ポプラ社)を手がけた高岡昌江氏に、ブーム再燃の要因を聞いた。

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■スター動物の裏側に焦点、『ざんねんないきもの事典』シリーズがヒット

 動物たちの知られざる生態に焦点を当てた『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)が、2016年の発行から現在までに累計127.1万部のミリオンセラーを記録(オリコン調べ/9/24付現在)。『第10回オリコン年間“本”ランキング2017』総合部門でも、3位にランクインした。続編も軒並みヒットを続けていることからもわかるとおり、児童に向けて動物などを紹介する図鑑風の書籍は、類似書ふくめてセールスは好調。その背景には、時代のニーズに合わせた作り手側の工夫が影響しているようだ。

 『ざんねんないきもの事典』シリーズを監修した今泉氏は、これまでと一線を画した児童向け図鑑のヒットについてこう語る。

 「僕は監修する立場で、内容を考えるのは著者や編集の人たち。ただ思うのは、これまでは動物の中の“スター”を取り上げることが多かったんです。でも今はそこではなく、反対側から見た魅力を伝えたほうが、みんなが面白いと思ってくれるのだと思います」(今泉氏)。

 ライオンの強さ、ゾウの大きさといった見てわかる長所ではなく、むしろその裏側にある動物の意外性や短所を拾い出し、“ざんねん”というキーワードでくくったことが、人々の興味を煽ったのだろう。それこそ、作り手側の動物愛と知識が、読み手側に親近感を与えた証と言える。

■図鑑ブームが再燃、イラストやクイズなど見せ方の工夫が間口を広げた

 そして、新作『どうぶつのかお ならべてみた!』(ポプラ社)で今泉氏とタッグを組んだのが高岡氏。これまで、『ほんとのおおきさ動物園』(学研)など人気図鑑シリーズを手がけてきた。

 「2009年くらいに小学館から『くらべる図鑑』という書籍が出て、話題になりました。ちょうど私も同時期に『ほんとの大きさ動物園』を作ったんですが、そこで一度、“図鑑ブーム”が起きたんですね。それまで図鑑は知識を得るためのものだったのが、紹介の仕方や見せ方が変わってきたことで、今まで気が付かなかったところに光が当たり、間口が広がった。動物や生き物自体は変わってないんですけど、それらの図鑑によって、この10年くらいで人々の受け取り方も変化したんだと思います」(高岡氏)。

 確かに、かつての図鑑はカタログ的要素が主だったのに比べ、10年ほど前の“図鑑ブーム”では、動物や昆虫の実物大写真を掲載したり(『ほんとのおおきさ動物園』)、人間と動物の大きさを対比したり(『くらべる図鑑』)と、見せ方に変化が見られた。これらにけん引される形で、自然科学のみならず“生活”や“体”などより幅広く展開する図鑑もヒット(小学館『プレNEO』シリーズなど)。最初のブームから現在までに様々な図鑑が刊行され、人気は安定していたと言える。そんな中で登場した『ざんねん~』などの最近の図鑑は、イラストを効果的に使用し、切り口にも工夫があることが特徴だ。決して教科書的ではなく、コミカルな見せ方をすることも多くなった。今回の『どうぶつのかお ならべてみた!』でも、ある種類の動物の顔を並べた中に別種を混ぜ、クイズ形式で違いを紹介。写真とイラストで、楽しみながら学べる仕組みになっている。

■親の影響で生き物に触れる機会減少、「子どもが食いつくものを大人が探してあげることが大事」

 しかしながら、昨今の子どもたちは外で遊ばず、ゲームやネットの動画に夢中なこともしばしば。とくに都会の子どもは、動物や虫に触れる機会が極端に少なくなった。ペット以外の動物や虫を“汚いもの”“怖いもの”として敬遠する親が多いことも、その距離感に拍車をかけているのだろう。だからこそ、じつは愛くるしい特徴や美しい色彩を、今までと違う形でじっくり眺められる図鑑が、世代を超えてウケているのだ。

 両氏も、「実際は、お母さんが嫌がるし待っていてくれないから(笑)、動物や虫をじっと見る機会がないんですよ。だから、今作のような見せ方はアイディアの勝利」(今泉氏)「実際のイモムシが目の前にいたら『イヤ!』と言うお母さん方も、本で綺麗に見せると虫も意外に可愛いんだと思ってくれるんです。今作をクイズ仕立てにして“探す”ようにしたのも、1つ1つをじっくり見てほしいからなんです」(高岡氏)と、見せ方へのこだわりを語る。

 今でこそ動物の専門家である今泉氏、動物の本を数々手がける高岡氏も、昔からずっと動物、生き物が好きだったわけではないそうだ。だからこそ両氏は、子ども時代に“知る”“触れる”ことの大切さを訴える。

 「虫が好きな兄の影響で触ることはあったんですが、子どもの頃は自分から積極的に生き物に関わるタイプではありませんでした。でも大人になって、当時体験したことを思い出して目覚めたんです。大人になって生き物と向き合ったときに、“嫌いじゃなかった”から入れれば、彼らに対する気持ちも前向きになる。この本が対象としている小学校1年生以下の子どもたちの中には、生き物が苦手な子がいるのも当然。ただ、苦手だとしても“嫌いじゃない”と、マイナスだけで終わらないことが大事なんですよね。面白い、親しみやすいとボンヤリでも思っていれば、ふとしたときに興味が開花することもありますから」(高岡氏)

 「僕は生き物をいじめるのが好きな子どもで(笑)、どちらかと言うと生態を知ることの方に興味があった。この本で動物に対して一瞬でも面白いと思えれば、きっといいことがありますよ。知らないよりも、知っているほうがいい。触れないよりも、触れたほうがプラス。だから面白い本をたくさん作る。子どもが食いつくものを大人が探してあげることが、すごく大事なんだと思います」(今泉氏)

■ユーモアあるタイトルは余裕の証?「経済的に安定してきたせいもある」

 また、『ざんねんないきもの事典』や、図鑑ではないもののヒット中の児童向け書籍『うんこ漢字ドリル』からもわかるとおり、少し下品かつユーモアあるタイトルも、人の興味を大きく刺激した理由のひとつ。そこには、世の中の経済的な余裕や時代の流れが関係していると、今泉氏は言う。

 「経済的に安定してきたせいもあるでしょう。20~30年前はそんなタイトルは付けられなかった。社会全体の流れの中で、ユーモアを受け入れるゆとりが出てきたんだと思います」(今泉氏)

 今泉氏は、そういったユーモアや余裕こそ、児童向け書籍を監修する上で大事だと言う。

 「本を作る上で、動物の専門家である監修側と、編集・著者側で、紹介や表現の仕方に意見の相違が出ることもある。著者側は『この動物の生態は実は○○なんです』と紹介したくても、専門家から見れば正しくは種の生態ではなく、単に個体の性質かもしれない。でも、いいんです。動物の生態は99%わかっていない。ならば面白いほうがいいですよね? だから僕は監修として、一緒に本を作るみんなに『責任は僕がとるから、行け!』と言っていました(笑)。面白いものが作れて、子どもに興味を持ってもらうことが何よりも大事なんです」(今泉氏)

 触れ合う機会の減った動物や自然と、子どもたちの間を繋ぐ役目を果たしているのが、新たな形となった最近の図鑑だ。これらによって大人が“きっかけ”を与えること。それが、子どもの可能性を広げることに繋がるだろう。

(文:川上きくえ)


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