安倍晋三首相が、少子高齢化を「国難」と呼んで衆院を解散し、総選挙で勝利してから1年になる。

 例えの良否は別として、深刻になる人口減と超高齢社会をどう乗り越えるかは、支える側の子や孫の将来を左右する重大事である。持続可能な社会保障を引き継ぐ方策はあるのか。未来を見据えた財源論議を先送りすることはできない。

 首相は、処方箋の一つとして、現在、企業などに課している65歳までの継続雇用を、70歳まで引き上げる方針を打ち出した。残りの任期3年の「最大のチャレンジ」とし、「生涯現役社会」の実現を目指すという。

 これには、二つの難題を同時に解決する「一石二鳥」の狙いがある。

 一つは、人口減による人手不足対策だ。成長戦略の一環として位置づけたのは、働く高齢者を増やし、労働力を確保する狙いがあるためだ。

 もう一つは、高齢者の能力や収入に応じ、支えられる側から社会保障制度を支える側に回ってもらう、そのための環境整備である。

 まずは、年末までに中間報告をまとめ、3年間の工程表を含む実行計画を来夏までに決定。負担増などの痛みを伴う改革議論は、参院選後に先送りする構えだ。

 来年秋の消費増税による景気停滞も懸念されている。不安に拍車を掛ける「痛み」論議は封印し、なるべく後回しにしたいのは理解できる。

 しかし、政権側が論議の材料を示さないと、何も前に進まない。週明けからの臨時国会の論戦も、空虚なやりとりに終始するのではないか。

 一口に60代後半と言っても、人それぞれに、健康状態や労働意欲が異なるのは、当然の生活実感だ。

 現役並みに働き続けたい人はいるだろうし、収入の多寡より、社会貢献に生きがいを見いだす人もいるだろう。個々人に選択の自由があるなら、継続雇用を延長すること自体に異論のある人は少ないのではないか。

 首相の言う「生涯現役社会」の先に何が待つのか、それを示さないまま参院選を戦うことは、有権者の負託に応える態度と言えない。

 1年前の衆院選で打ち出した「全世代型社会保障」によって、消費増税分のうち2兆円を子育て、教育無償化に充てても、超高齢社会の現実は何ら変わらない。

 2%の消費増税は、約4・4兆円の歳入に相当する。国の借金は883兆円。財政赤字を一挙に解決する方法など、見当たらない。「自転車操業」でも財政が破綻しないのは、超低金利政策で借金の利払いが抑え込まれているからにすぎない。

 社会保障を破綻させず、暮らしの安心を子や孫の世代に引き継げるのか。野党側も、「増税反対」「弱い者いじめ」と反発するだけでなく、未来への責任を持った論議を積み上げてほしい。