ワーク・ライフ・バランスを考える❷

父親の笑顔が社会を変える

家族の笑顔が増える社会を目指し、企業や自治体などでセミナーや講演活動を行う徳倉康之さんにワーク・ライフ・バランスを考える上で「イクボス」の役割とは、父親の笑顔が家庭や会社、社会に与える影響について伺いました。

徳倉 康之 氏
株式会社ファミーリエ代表取締役社長

1979年生まれ、法政大学法学部卒業後約10年間大手日用雑貨メーカーで法人営業を担当。2009年に長男誕生後イクメンという言葉すら無かった時に8カ月の育児休業を取得。その後次男・長女と生まれそれぞれに3ヵ月の育児休業を取得。家庭を重視し、効率的に働くことが業績に連動する事を経験。2011年にNPO法人ファザーリング・ジャパン会員、後に2013年理事に就任と同時に独立し故郷の高松市にUターンし株式会社ファミーリエ設立。企業・自治体・大学・高校・医療機関等での講演、セミナーを中心に活動。現在は内閣府子ども子育て会議委員、男女共同参画連携推進会議有識者議員、仕事と生活の調和推進のための社内制度・マネジメントのあり方に関する調査研究企画委員。

経済が成長している時代に日本には男性は仕事、女性は家事、育児という概念や、長時間労働でも社会が受け入れる風土がありました。それは父親一人が働くだけである程度の生活ができる社会構造があったからです。

しかし現在は人口減少で地域経済の成長が弱まり共稼ぎでないと家計が維持できない、また企業では労働者不足が深刻な課題となっています。
そして価値観や生き方が多様化した社会の動きにも企業側の対応が遅れたことで企業と社会の風土のギャップが現れ、その中から働き方や子育て支援を考える動きが出てきました。

世代間の過渡期

2010年には流行語大賞に「イクメン」が選ばれました。それ以前は男性が育児休業を取得するのはすごく希なケースで「何か特別な事情があるんだろう」という感じでした。しかし核家族化が進むと妻も働くようになり「妻も働いているんだったら一緒に子育ても家事もする」と考える20代、30代の男性が増えてきました。この世代は共学であれば中学、高校で男女一緒に家庭科を学んで、共に働き共に育てるという概念を持っています。
ところが今の45歳以上の管理職や経営者が働いていた20代、30代のころと、社会構造や教育が変わった中で育った若者とが、上司と部下の関係になり、考え方のずれでお互いが悩んでいる。
そのずれをなくしていく方向に動き出した今がまさに世代間の過渡期と言えます。その過渡期の中で「イクメン、イクボス、ワーク・ライフ・バランス」などの言葉が新しく生まれ、これからの企業や社会のあり方を示すキーワードになっています。

笑顔を増やす近道

わたしたちが父親の笑顔を増やすには何をすればいいかを考えたときに、社会の最小単位である家庭で父親が笑うと家族みんなも笑顔になる、そういう家庭が増えると地域に笑顔が広がる。笑顔の父親が働く企業は生産性も上がり経済も活発になり社会も明るくなる。
社会が明るいから個人が明るくなるというのではなく、個人の笑顔を増やすことが社会を変える一番の近道だと考えています。
そこで、みんなの笑顔を増やすために「イクボス」の存在は大きいと考えます。国の施策で企業は仕事と生活の両立を図るための計画を策定し、さまざまな制度を整えています。しかし働く現場に制度はあっても簡単に利用できるような企業風土が少ないのが現状です。
その風土を変えるため、まず「イクボス」という言葉をみんなが知ることで意識が共有できる。そして組織でイクボスが活躍すれば10年掛かることが3年で風土が変わっていく。

イクボスに必要なのはコミュニケーション力

イクボスとは管理職や経営者のことで、職場で共に働く部下やスタッフのワーク・ライフ・バランスを考え、組織を維持しながら自らも仕事と生活を楽しむことができる人のことを言います。
具体的には労働人口が減少する中で時代に沿った考え方で意識改革や、今ある人材を生かす働き方や仕組みを見直し、働き続けられる組織に変えていくマネジメントを実践する人のことです。
イクボスの組織で行うマネジメントには経営戦略や人事がありますが、大事なのは部下への声かけと、相互理解の上の適切な配慮です。
たとえば上司がAさんは子育て中だからBさんに仕事を振る、このとき上司は配慮したつもりだけれど、Aさんは任せて欲しい仕事だった場合、Aさんは配慮してもらったとは感じないというケースがあります。相互理解は双方向のコミュニケーション。上司が部下とお互いの意見を気軽に交わせる関係を率先してつくってゆけば、部下の仕事へのやりがいや、働きやすさにつながっていきます。
また、部下のワーク・ライフ・バランスはワークがフィフティー、ライフがフィフティーということではなく、それぞれの人生の場面で優先順位があり、それに合わせて働き方のバランスも変わります。そのバランスをイクボスも理解してサポートすることが部下にとっても企業にとってあらゆる面でプラスに変わるはずです。

良い父親ではなく子育てを楽しめる父親に

い父親の基準はたくさんあるので人によっては、なにが良い父親なのかは分かりません。しかし父親の笑顔は共通していますよね。わたしはその笑っている父親を増やしたいと考えています。
それは仕事も一生懸命で、家族とも楽しい時間を過ごすことで生まれる笑顔のことです。特に子どもが小さい時にしか築けない貴重な親子関係が期間限定であると思います。子どもが産まれて父親になって、かけがえのない存在を初めて知る。それは母親だけが知るというのはもったいないと思うし、自分の父性とか母性を磨く大事な時間だと思う。そのことに気づいてもらって主体的に子育てに取り組むことで父親が子育てをもっと楽しむことにつながっていくと思います。
最近、イクボス研修や講演などで企業を回って感じることは、参加してくれる管理職の方々が真剣に私の話に耳を傾けてくれるようになりました。それはやはり現状を変えようと前向きに取り組む姿勢の表れだと感じています。
わたしたちの活動が父親と子どもの一緒に過ごせる時間が増えていく手助けになっていることに、やりがいを強く感じています。