「震潮記」の語り部として、地震や津波の恐ろしさを伝え続けた田井晴代さん=2014年1月、阿南市の岩脇小学校

 「先人の教えを後世に残す。被害は繰り返さない」。南海地震の古記録集「震潮記(しんちょうき)」の現代語訳者で、死去していたことが16日に分かった田井晴代さん=海陽町宍喰浦=は過去の大災害の風化を許さず、使命感に燃えた語り部だった。突然の訃報に、親交のあった人たちは「大きな功績を残された」「残念でならない」と、地震や津波の恐ろしさを伝え続けた田井さんをしのんだ。

 宍喰地区きっての旧家である田井家に伝わった震潮記の原本を見つけたのは、1989年。難解な古文で書かれていた。古文書の知識がほとんどなかった田井さんは、海陽町から県立文書館に通い詰め、読み方を学んだ。「これこそ地域に生かすべき資料。多くの人に読んでほしい」と口語訳にこだわり、2006年には念願の自費出版にこぎつけた。

 30年近く交流のある県立文書館の金原祐樹専門員(53)=石井町石井=は「月1回は文書館の勉強会に参加し、後進の育成にも熱心だった。1週間前に元気な姿を見たばかり」と声を落とした。

 南海トラフ巨大地震の発生が懸念される中、講演などで若い世代への防災啓発にも精力的に取り組み、命を守るため高台への避難を訴えた。昭和南海地震発生70年の節目に合わせ、16年に海陽町立博物館で震潮記の展示会を企画した島田佳香さん(40)=町地域おこし協力隊、同町宍喰浦=は「伝えることが『自分の使命』と言っていた。もっと話が聞きたかった。田井さんの思いを引き継ぎたい」と語った。

 震潮記は室町時代から江戸後期まで、宍喰を襲った過去4回の南海地震について記しているが、1512年の永正津波は他に記録がないため「幻の津波」とされ、現在も研究者の関心を集めている。約40年にわたって四国の津波災害を研究してきた村上仁士・徳島大名誉教授(75)=徳島市上八万町西山=は「全国から多くの研究者が田井さんを訪ね、影響を受けた。同志を失ったようだ」と悼んだ。