山あいの集落をゆっくりと走るモノレール。荷物運搬の大動脈として走り続けている=つるぎ町一宇十家

 剣山系の麓に位置する、つるぎ町一宇の十家(といえ)集落には車道がない。約1時間かけて歩いて行くしかないが、1本のモノレールが近くの国道438号とを結ぶ。

モノレールと言っても、1両は幅約1・3メートル、長さ約2メートルで、わずか2両編成。荷物運搬用だが、住民が乗ることもあり、貴重な足になっている。

距離は本線約1・1キロで、本線から離れた住宅に向かって2本の支線が伸びる。住民でつくる大型モノレール組合が管理し、利用者が燃料代を負担する。

国道438号の停留所から、近くに住む下家(しもけ)重夫さん(76)にモノレールを動かしてもらった。下家さんは十家集落出身。使用できるのは原則住民や元住民だけだ。

下家さんがレバーを思い切り引っ張り、エンジンを稼働させる。最大斜度38度とされる急斜面を登り、杉林の中へと進む。スピードは時速1・5キロで、歩くより遅い。うっそうとした雰囲気が少し不気味だ。

出発してから約20分、まぶしい太陽の光が飛び込んできた。さらに5分ほどで中腹にある停留所・十家堂に着いた。周囲を見渡すと、所々に人けのない家や畑が見える。

遠くには西日本第2の高峰・剣山が眺められるなど景色は抜群。向かいの山の集落で流れているラジオの音が聞こえるほど静かだ。

下家さんによると、集落にある約30軒のほとんどは空き家で、今は1人しか住んでいないという。

レールに沿って急斜面を徒歩で約10分上る。木々に囲まれた脇道を5分ほど進むと、唯一の住民、上家(かみけ)敏一さん(59)が出迎えてくれた。

上家さんは週に1回程度歩いて集落を下り、商店で購入した10キロの米などが入ったリュックを背負って山道を登る。モノレールは使わない。「3、4年前に他の人はいなくなってしまってさみしいが、過ごしやすく、別の場所に住むつもりはない」と話す。

停留所は全部で三つ。終点は十家集落で最も奥に近い標高約700メートルの地点。438号からは約40分かかる。

集落は、古くからタバコや養蚕などで生計を立て、1950年には、40世帯202人が住んでいた。高度経済成長とともに、仕事などを求めて平野部や県外に流出。過疎対策として山間地では道路整備が進んだが、十家集落は急斜面で地形が悪く多額の事業費がかかるため、考え出されたのがモノレールだったという。

農産物や生活物資の運搬を目的に、旧一宇村が整備したのは1986年。90年にはまだ19世帯42人が住んでおり、農林産物の集荷や出荷などに貢献した。買い物などに訪れるため、人も多く利用した。

「生活に欠かせない存在だった」。大型モノレール組合の十家照子会長(76)は話す。十家会長は85年ごろに十家集落を離れ、国道438号の停留所近くに住みながら、週末ごとに十家集落に行き、農作業などをしていた。

現在モノレールは、集落の出身者が月に数回訪れ、収穫した野菜などを運んでいる程度だ。全く動かない日も多いが、古里を結ぶ貴重な手段として、これからも走り続ける