自販機にカレーライスを補充する吉本さん=阿波市土成町吉田のコインスナック御所24

 見るからに古びた自動販売機。落語家・笑福亭仁鶴さんの若かりし写真とともに、カレーが映り「お持ち帰りもできまーす」の文字。レトロ感いっぱいで、失礼だが、稼働しているような感じがしない。「ほんまにカレーが出てくるのか」

阿讃山脈の麓に位置する阿波市土成町吉田の県道鳴門池田線沿い。自動販売機が並ぶ「コインスナック御所24」には、トタン屋根の建物に清涼飲料水やカップ麺など21台の自販機が並ぶ。近くに住む吉本忠さん(74)が1981年、ドライバーの休憩所にしてもらおうと設けた。

カレーライスの自販機は、「中辛」と「辛口」の二つのボタンがあり、いずれも300円。100円玉を3枚入れ、「辛口」ボタンを押した。取り出し口に黄色の包装紙で包まれた商品が落ちてきた。手にすると、温かい。ご飯が入った容器の上にレトルトパックのカレーが乗っていて、パックを開けカレーをかけて食べる。「うまいっ」

ご飯は吉本さんが毎朝、自宅で炊いて容器に入れている。自販機には中辛、辛口各15食を詰め込みでき、1日20食ほど売れる。長距離トラックの運転手や常連客の他に、県外から固定ファンもおり、多い日は1日2、3回補充するという。

設置したのは、コインスナックを開業してから2年後。当時は各地にあったものの、時代とともに姿を消し、「今では全国で唯一でないか」と吉本さん。値段は一度も変わっていない。

カレーの自販機の前に一人の男性がやってきた。長距離トラックの運転手だった頃から30年間通い続けているという西岡繁雄さん(73)=藍住町矢上。「昔は出勤前の朝食がてらよく立ち寄った。退職した後も週2、3回は食べに来る」と話す。

飲食類に交じって一風変わった自販機も見つけた。滑り止め付き軍手。昔は荷物の積み降ろしをするトラック運転手や近くの土木業者がよく買ったそうだ。

開業からまもなく40年になる。「体と機械が動くうちは頑張りたい」。吉本さんは、きょうもカレーのご飯を炊く。

阿波市内にはもう1カ所、ユニークな自販機コーナーが土成町土成の広域農道沿いにある。

名前は「自販機コーナー・ポニー」。自販機9台の並びに「ポニーのエサ100円」と記された看板があり、その先に目をやると、1頭のポニーがいる。近くの小屋にはヤギやウサギもいる。


ポニーにエサをあげる子ども=阿波市土成町土成の自販機コーナー・ポニー
管理者の井上春行さん(69)=同市土成町浦池=が19年前に開業した際、客を呼び込む目玉にしようと飼い始めた。当初の2頭は死んでしまい、今は6年前から飼っている「華ちゃん」(雌、10歳、体長2メートル)のみとなった。

餌はニンジンやサツマイモがビニール袋に入れられ、無人の箱に100円を入れると、購入できる仕組みだ。

自販機コーナーは、地域の憩いの場にもなっており、平日の朝は地元農家ら10人ほどが集まって世間話に花を咲かす。週末になると、親子が訪れ、餌をやったり一緒に写真を撮ったりして楽しんでいる。

石井町高川原から長女の萌杏(もあ)ちゃん(2)と共に訪れていた松本真理さん(34)は「ドライブがてらよく来ます。気軽に動物とふれあえるし、娘も気に入っています」。

阿波市の二つの自販機コーナー。無機質な機械が並ぶのに、どこか人のぬくもりが感じられる場所である。