安倍晋三首相が目指す安全保障政策の大転換がまた一歩前進することに、危うさを感じる。

 政府が新たな安全保障関連法案を閣議決定した。

 現憲法下では認められないとされてきた集団的自衛権行使を可能にするのをはじめ、自衛隊が地理的な制約なしに米軍や他国軍を支援できるようにする狙いだ。

 政府はきょう法案を国会に提出する方針だが、日本が戦後築き上げてきた「平和国家」の在り方が変容する恐れが強い。このまま成立させてよいはずがない。

 何が問題なのか、どこに危険性があるのか。国会は審議を尽くして、国民に明らかにしなければならない。

 安倍首相は閣議決定後に記者会見し、新たな安保法制の整備は国民の生命と平和な暮らしを守るためであり、日米同盟が強まることで日本のリスクが減少すると強調した。

 さらに集団的自衛権について、厳格な歯止めを定め、行使できるケースは限られていると理解を求めた。

 しかし、地理的制約が撤廃されれば、自衛隊の活動範囲は世界に広がる。「非戦闘地域」に限っている現在の縛りをなくし、「現に戦闘行為が行われている現場(戦場)以外」での活動も可能にするとしている。

 武器使用基準の緩和も併せて考えれば、自衛隊が戦闘に巻き込まれる可能性は高まろう。それが日本をより安全にする道といえるのか。

 首相が言うように、集団的自衛権の行使には、日本の存立が脅かされ、国民の生命や自由が根底から覆される明白な危険がある場合などの条件が付いている。だが、判断基準には曖昧さが残る。

 中東・ホルムズ海峡の機雷掃海を政府、自民党が可能とし、公明党が否定的であるのが典型例だ。石油の輸入停止は深刻な問題だが、集団的自衛権を行使しなければならない事態なのか。政府が必要と判断すれば認められることにならないか。疑問が次々と湧いてくる。

 首相の前のめりの姿勢に、国民が不安を募らせるのは当然だろう。共同通信社の世論調査では、今国会での成立に48・4%が反対している。

 審議に当たる国会の責任は重い。とりわけ、しっかりしなければならないのは野党第1党の民主党である。

 対決姿勢を打ち出してはいるものの、先月まとめた見解では、将来的に集団的自衛権の行使を容認する可能性を残した。

 党内が賛否で割れているためのようだが、そんな姿勢で「自民1強」の巨大与党に対抗できるのか。日本の安全と国民の生命をどう守るのか。明確な安保政策を示して論戦に臨んでもらいたい。

 政府、与党は会期を延長して夏までに法案を成立させる構えだが、数の力で押し通すことは断じて許されない。国民が厳しい目を注いでいることを忘れてはならない。