動物の命と尊厳をめぐる悩ましい問題である。欧米など諸外国には、日本固有の伝統文化を理解してもらいたい。

 和歌山県太地町では、漁船から音を出して、湾内に追い込んだイルカを捕獲する伝統的な漁法が行われている。

 世界動物園水族館協会は、追い込み漁を「残虐だ」と非難。加盟施設が太地町のイルカを入手している日本動物園水族館協会の会員資格を停止し、改善されない場合は日本協会を除名すると通知した。

 世界協会から離脱すれば、施設はゾウなど人気の希少動物の入手が困難になり、死活問題だ。

 日本協会は会員の投票により、世界協会への残留を決めた。やむを得ない決断だと言える。

 世界協会が追い込み漁によるイルカ入手への非難決議をしたのは2004年だった。日本協会は「許可された伝統漁法だ」「残虐ではない」と主張を続けたが、平行線をたどった。日本の立場が尊重されなかったのは残念だ。

 日本協会は、会員施設が追い込み漁によるイルカを入手するのを禁止するが、その影響は大きい。会員でイルカを飼育しているのは34施設で、少なくとも19施設が太地町から入手していた。全体で年間20~30頭に上るという。

 必然的に繁殖によるイルカの確保を迫られる。現在、繁殖させている水族館は少数派だ。今後、繁殖を促進する構えの協会は、一刻も早く軌道に乗せなければならない。

 一部の水族館からは「太地町から入手し続けるため、日本協会からの脱退もやむを得ない」との声が上がる。

 窮地の水族館などを救うためには、公的な繁殖支援策も検討すべきだろう。

 考えさせられるのは、日本と欧米のイルカをめぐる認識のずれである。

 水産庁などによると、米国では水族館のイルカの約70%が繁殖による。20年ほど前から捕獲をやめ、水族館が連携して繁殖を試みている。欧州でも繁殖が基本的な方向だ。

 欧米では近年、追い込み漁に反対する論調が強まっている。太地町の漁を批判的に描き、10年にアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した米映画「ザ・コーヴ」も、抗議運動が過熱する契機になったようだ。

 世界協会の一方的な決めつけに、和歌山県や太地町が反発したのは当然だろう。伝統文化も漁民の生活権も守られなければならない。

 残念なのは、欧米に追い込み漁を日本の伝統文化として容認する雰囲気がほとんどないことである。

 政府は、イルカを漁の対象にしてきた日本の事情をしっかりと世界に伝えてほしい。

 もちろん、イルカの捕獲、飼育などには十分な配慮が必要だ。改善も重ねたい。

 国際社会は、各国の多様な文化、歴史的伝統を認め、共存への道を探るべきだ。そのことを世界協会もよく認識してほしい。