迷走を続けた新国立競技場の建設計画が白紙に戻り、ゼロベースで見直されることになった。

 従来の計画は総工費が当初の想定より大きく膨らみ、巨額な維持費と相まって「負の遺産」になるとの懸念が強かった。

 2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムである新競技場は、大会後も長く日本のスポーツ文化を象徴する場になるものだ。

 国民の理解を得ないまま見切り発車するのは許されない。見直しは当然である。

 周辺の環境と調和し、選手、観客が使いやすい競技場となるよう、政府や関係機関は全力を注いでもらいたい。

 白紙化に当たり、安倍晋三首相は「主役は国民、アスリートだ」と語り、国民の意思を尊重する姿勢を強調した。

 だが、本当にそうなら、もっと早く決断できたはずだ。

 首相は最近まで、見直しに否定的だった。方針を突然変えたのは、政権批判の高まりを恐れたためではないか。

 安全保障関連法案をめぐり低落する内閣支持率を、回復させたいとの狙いもあったのだろうが、効果は薄かった。決断が遅かった上に、思惑が見透かされたからだろう。

 見直しは決まったものの、多くの課題が残っている。

 東京五輪の開幕まで、あと5年しかない。政府は、秋までに総工費の上限などを示す整備計画を作った後、新たなデザインや設計、建築を一体で選ぶ国際コンペを実施。来年初めに設計、施工に着手し、20年春の完成を目指すとしている。

 極めて窮屈なスケジュールだが、計画通り完成させなければならない。

 財源の確保も難題だ。現時点で見通しがついているのは、国費392億円とスポーツ振興基金の取り崩し分125億円、スポーツ振興くじ(サッカーくじ)の売り上げ拠出分109億円の計約626億円だけである。

 総工費が2520億円超に膨張した従来の計画は論外としても、当初の想定は1300億円だった。それでも700億円近く足りない。

 政府は東京都の負担や民間資金を当てにしているが、限界があろう。振興基金やサッカーくじからの拠出を増やせば、選手の育成・強化費が減りかねない。

 国内最大級の日産スタジアム(横浜市)が603億円、ロンドン五輪のスタジアムが828億円だったことを考えると、当初想定した総工費も再考する必要があるのではないか。

 最大の課題は推進体制をいかに整えるかである。計画が頓挫したのは、文部科学省などが当事者意識に欠け、無責任体制になっていたからだ。

 政府は関係閣僚会議を立ち上げ、実務者による推進室の設置も決めた。

 失敗を繰り返さないためには、これまでの経緯を検証し、責任の所在を明確にすることも忘れてはならない。