被爆者援護法に基づく医療費の全額支給規定が、海外で暮らす被爆者にも適用されるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁が「全額を支給すべきだ」とする初判断を示した。

 唯一の戦争被爆国である日本には、被爆者がどこに住んでいても支援する責任があるということを司法が明確に示したものだ。

 被爆者援護法は全額支給の対象を国内居住者に限定しておらず、その趣旨を踏まえると、判決は妥当である。

 独自の解釈で法の趣旨を曲げ、在外被爆者を差別的に扱ってきた国は、重く受け止めなければならない。

 判決を受けて、厚生労働省は在外被爆者を除外してきた運用を来年1月にも改める方針を決めた。下級審で争われている訴訟も終結に向かう見通しとなった。

 戦後70年が経過しての対応は、あまりにも遅いと言わざるを得ない。在外被爆者の救済を急ぐべきだ。

 最高裁は「援護法は国家補償の性格があり、国内限定と解釈する必然性はない」とした一、二審を支持した。救済に差があってはならない。

 広島や長崎で被爆した後、帰国や海外移住した在外被爆者は、韓国や米国など33の国と地域に約4280人いる。多くは80代、90代となり、健康不安と闘いながら暮らし、亡くなった人も少なくない。

 医療費は、日本で医療を受ければ全額支給される。だが、重い病気や高齢で渡航できないため、居住国で治療を受けるケースが多い。

 国はそういった実情に目を向けず、「国外での医療費はそれが適正な額なのか確認できない」などの理由で、援護法の枠外で年間30万円を上限に助成してきた。しかし、医療費が助成額を上回ることは多く、在外被爆者の不満は高まっていた。

 国や地域によって医療保険制度は異なるため、援護法に基づいて医療費を適正に支給する仕組みをつくるのは容易ではない。だが、時間は十分にあったはずで、放置したのは国の怠慢である。

 医療費支給の手続きは、医療機関から診療録を取り寄せて提出するなど、高齢の在外被爆者にとっては煩雑だ。簡素化して負担を軽減できないか検討してもらいたい。

 これまで、在外被爆者は裁判で救済を少しずつ勝ち取ってきた。

 国内居住者にしか認められていなかった被爆者健康手帳は、1978年に最高裁で交付が確定した。2003年からは健康管理手当を受給できるようになり、その後、在外公館での手当申請も可能になった。残っていた大きな課題が医療費全額支給である。

 国は、敗訴するたびに指摘された部分だけを手直ししてきたが、介護手当の支給などの格差は残っている。

 これ以上、弥縫(びほう)策を繰り返してはならない。在外被爆者の苦しみに寄り添った施策や制度の運用を考えるべきだ。