南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国が埋め立て、「領海」と主張する人工島の12カイリ(約22キロ)内を、米海軍のイージス艦が航行した。

 中国は「領海侵犯」だと反発しているが、南シナ海の大半が管轄下にあるなどという主張は、国際的に到底通用しないものだ。

 米国は、国際法の原則である「航行の自由」を確保するため、「海洋権益を過度に主張する国に対抗する」と説明している。背景には、中国が海域を実効支配してしまうとの危機感がある。今回の行動は理解できる。

 ただ、軍艦の派遣は地域の緊張を高め、不測の事態を招く恐れがある。米国は今後も航行を続ける構えだが、米中が軍事衝突する最悪の事態は避けなければならない。

 中国が自制するのはもちろん、米国にも慎重な行動を求めたい。

 米艦が航行したのは、南沙諸島のスービ(中国名・渚碧)礁の付近だ。スービ礁には中国が造成した人工島があり、3千メートル級の滑走路建設を進めている。

 中国は人工島から12カイリ内は自国の領海であり、主権が及ぶと主張している。だが、国連海洋法条約が領海の起点と定めるのは、基本的に、満潮時でも水没しない自然に形成された陸地である。

 埋め立て前のスービ礁は満潮の際、水没していた。領海の起点と認めるわけにはいかない。

 そもそも、南沙諸島の領有権自体、ベトナムやフィリピンなど周辺諸国との間で争いがある。

 中国は地図上に「九段線」と呼ばれる境界線を独自に引き、「南沙諸島は2千年以上前に中国が発見した」と強調するが、国際法上の根拠は明確ではない。なのに岩礁や暗礁を着々と埋め立て、滑走路や港湾を建設している。

 目的の一つとみられるのが軍事拠点化である。それは周辺諸国だけでなく、日本や米国にとっても脅威だ。海上交通路の要衝である南シナ海で自由な往来が阻害されれば、貿易など多方面で大きな支障が生じる。

 中国も「航行の自由」による恩恵を受けてきた。大国を自認するのなら、一方的な主張をやめ、埋め立てを中止すべきである。

 偶発的な衝突を防ぐには、互いの意思疎通が欠かせない。米中両国は来月にも、軍高官による意見交換を行う見通しだ。そうした対話を継続してもらいたい。

 南シナ海をめぐっては、2002年に中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が、領有権紛争の平和的解決を約束した「行動計画」に調印している。

 力と力の対立では何も解決しないことは、中国も以前から認識しているはずだ。独善的な行動ではなく、南シナ海を「平和と共存の海」にすることこそが、大国の務めであろう。