世界のスポーツ界への信頼を揺るがしかねない由々しき事態だ。

 ロシア陸上界のドーピング疑惑で、国際陸連がロシア陸連を暫定的な資格停止処分にした。薬物違反による各国・地域連盟の資格停止は初めてである。処分が解除されなければ、来年のリオデジャネイロ五輪には出場できない。

 国家ぐるみの不正が疑われるなど、前代未聞の悪質さが指摘されており、間を置かずに厳しい処分を下したことは、国際陸連の強い危機意識の表れだろう。

 ロシア陸連は、再発防止に向け、不正の温床となった構造に徹底的にメスを入れなければならない。

 国際陸連は、電話会議の形で臨時理事会を開き、日本陸連などの賛成22票、反対1票で処分を決定した。

 ロシア陸連の不正が分かったのは、昨年12月にドイツの公共放送で報じられたのが発端だ。これを受け、世界反ドーピング機関(WADA)が調査を進めてきた。

 その手口は、驚くべきものだった。

 モスクワには、WADA公認の検査所とは別の「第2検査所」という裏機関があり、尿などの検体のすり替えを担っていたという。裏機関は、問題があると判定された検体を破棄し、別の検体でチェックを逃れるようにしていた。選手はロシア陸連幹部らに賄賂を渡していたという。

 公認検査所には、強大な権限を持つロシア連邦保安局が頻繁に出入りしており、証拠のもみ消しに関与したとの見方もある。

 組織ぐるみの不正は明らかであり、国家の関与を疑われても仕方がないものだ。

 指摘を受けて、公認検査所の所長は解任された。ロシアのプーチン大統領は、「責任は違反した個人が負わなければならない」と述べ、独自の調査を指示した。だが、選手ら個人の行為として問題を矮小(わいしょう)化することは許されない。

 スポーツ大国のロシアには、旧ソ連時代の勝利至上主義が残っている。ドーピングに加担しなければ、選手は優秀なコーチの指導が受けられないこともあったという。そうした体質を改めることが先決だ。

 気になるのは、今回の問題は「氷山の一角にすぎない」との指摘があることだ。ドーピングの事例は、他のスポーツや国でも後を絶たない。対策は十分なのか、全ての組織があらためて点検する必要がある。

 5年後に東京五輪開催を控える日本も、反ドーピングの取り組みが欠かせない。

 ドーピングは大会の印象を左右しかねない「大きなリスク要因」である。検査態勢の厳しさを積極的に発信し、クリーンではない選手の参加を防ぎたい。

 禁止薬物は健康に害を及ぼす恐れもある。今回の問題を、世界のスポーツ界からドーピングを根絶する契機にするべきだ。