オバマ米大統領があす退任する。

 崇高な理念を掲げて登場し、その実現に向けて努力を重ねたオバマ氏の功績は評価されていい。だが、道半ばで終わった感も拭えない。厳しい現実との間で苦闘した2期8年でもあった。

 オバマ氏が就任した2009年の初頭を改めて振り返ってみたい。

 イラク、アフガニスタンでは、ブッシュ前大統領が始めた戦争が泥沼化していた。世界経済は、08年に起きたリーマン・ショックによる未曽有の危機のさなかにあった。オバマ政権は、まさにマイナスからの船出だった。

 アフガンでは今も、反政府武装勢力タリバンによる攻撃が続いているが、イラクの駐留米軍は11年末に撤退し、一応の終結を見た。前政権の「単独主義」から「協調主義」に転じたことが奏功したと言えよう。

 ただ、「米国は世界の警察官ではない」と宣言し、内向き志向を強めたことで、米国中心の国際秩序に挑もうとする国や組織に付け入る隙を与えてしまった。

 ロシアによるウクライナ南部クリミア編入、中国の海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発などだ。シリアとイラクでは、米国の力の空白に乗じるように過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭し、テロは世界に拡散した。

 対話を重視する外交政策は間違っていない。イランとの核合意やキューバとの歴史的な国交回復は、その成果だ。しかし、融和を基調とする姿勢が弱腰と映り、混乱を招いたのは皮肉である。

 経済では金融規制改革法などを成立させ、いち早く米国を危機から立ち直らせた。一時10%を突破した失業率は、5%弱に改善している。

 それでも、恩恵から取り残された人は多く、格差拡大への不満が高まった。低所得者層の救済につながる医療保険制度改革(オバマケア)の実施に力を尽くしたが、制度への賛否は割れた。

 そうしたことが、米社会の分断を深めた面は否めない。大統領選で、国民の怒りと対立をあおったトランプ氏に手を貸す結果ともなった。

 掲げた「核兵器なき世界」は遠く、姿は見えないままだ。現職の米大統領として初めて被爆地・広島を訪れた意義は大きいが、核の「先制不使用」宣言は見送った。

 初の黒人大統領でもあるオバマ氏は就任以来、民主主義や人権といった普遍的な価値を強調し、民族や宗教、文化などの違いを認め合うことの大切さを説き続けた。

 理念を語る言葉は力強く、「チェンジ(変革)」の呼び掛けは人々の胸に響いた。半面、実行力が十分に伴わなかったのは残念である。

 最後の演説では分断修復と結束の重要性を訴えた。自身がやり残したことだ。その仕事をトランプ氏が引き継ぐ。

 新大統領は、果たしてどんな理念を語るのか。