2020年の東京五輪・パラリンピックまでに「受動喫煙のない社会を目指す」とした、国の健康増進法改正案が後退する恐れが出てきた。

 最大の焦点である飲食店の例外規定に関し、厚生労働省は、喫煙を認める店舗面積を150平方メートル以下に広げる方向で調整しているという。

 厚労省の当初案が30平方メートル以下だったことを考えると、大幅な見直しである。これで世界に胸を張れる受動喫煙対策といえるのか。厚労省は再考すべきだ。

 東京都の15年度調査によると、都内飲食店の7割以上が100平方メートル以下という。

 例外規定を150平方メートル以下に広げると、大半の店舗が喫煙可になるだろう。

 家族連れらが訪れる飲食店も規制の対象から外れ、子どもたちに影響が及びかねない。何より店の従業員が受動喫煙の被害に遭ってしまう。

 厚労省が150平方メートル以下で調整しているのは、既存の飲食店の営業に支障を来さないための臨時措置という。

 ならば、喫煙を認める面積を段階的に小さくしていくなど、明確な数値目標を示す必要がある。骨抜きの法改正になっては元も子もない。

 国が進める受動喫煙対策は国際オリンピック委員会(IOC)や世界保健機関(WHO)から、「たばこのない五輪」が求められていることを受けての強化策だ。厳しい規制がない日本は、WHOから国際的に最低ランクと指摘されている。緩い対策にとどまれば、さらなるイメージ低下は避けられない。

 厚労省は、来年2月を目標に健康増進法改正案を通常国会に提出するとしている。

 店によっては喫煙専用室を設置する工事などが必要になるため、改正法の成立から1年半程度は周知期間を設けなければならない。

 そうなると来春には改正法を成立させ、夏ごろから本格的な啓発活動を始めなければ、東京五輪に間に合わなくなる。

 望まない受動喫煙をなくす環境整備を加速させるため、厚労省は法規制の取り組みと併せて、自治体や企業が行う受動喫煙対策への支援も充実させてもらいたい。

 具体的には、飲食店や中小企業が喫煙専用室を設置する際の助成拡大や、専用室を設けた事業所などへの税制優遇策である。

 対策の遅れは、政府が10月に閣議決定した「第3期がん対策推進基本計画」にも影響を及ぼしている。

 厚労省の専門家会合が「20年までに受動喫煙をゼロにする」とした数値目標を計画に盛り込むよう提言したにもかかわらず、法改正のめどが立たないことから盛り込みを断念した。

 たばこを吸わない人の健康をいかに守っていくか。安倍晋三首相は指導力を発揮し、国際基準に即した実効性のある対策を打ち出さなければならない。五輪開催国としての責務である。