滋賀県の病院で2003年、人工呼吸器を外して入院患者を殺したとして、殺人罪で服役した元看護助手西山美香さんの第2次再審請求の即時抗告審で、大阪高裁が再審開始を認める決定をした。

 有罪判決を支えた医師の鑑定書や西山さんの自白の信用性は、以前から揺らいでいたが、警察と検察は十分に見直さなかった。

 これまで何度も指摘されてきた自白偏重捜査の危険性が、また厳しく問われたと言えよう。なぜ改められないのか。捜査機関はしっかりと検証しなければならない。

 抗告審で大きな争点となったのは、当時72歳だった男性患者の死因である。

 確定判決は、酸素供給の途絶による急性心停止と認定していた。

 これに対して高裁は、遺体を解剖した医師の鑑定書が、人工呼吸器が外れていたとする警察の説明を前提にしていたと指摘。確定判決は呼吸器が外れていなかったとしているので、鑑定書だけでは判定できないと断じた。

 さらに、弁護団が新証拠として提出した臨床医らの意見書から、解剖時の血液検査の数値に着目し「致死性の不整脈による自然死の可能性がある」とした。

 その上で高裁は、西山さんの自白が多くの点で目まぐるしく変遷しているとし、「体験に基づく供述ではないとの疑いが生じる」と判断した。

 そもそも捜査は、患者の異常を発見した看護師が「呼吸器が外れていた」と説明したことで始まった。看護師は後に証言を変えている。その時点で事件性の有無に疑いを持たなかったのか。

 高裁が自然死に言及し、「事件」ですらない可能性があるとしたことを、捜査機関は重く受け止めるべきだ。

 自白について高裁は、西山さんが好意を抱き、信頼していた警察官らの誘導に迎合した可能性にも触れた。

 西山さんは服役を終えた後、「人に迎合しやすい傾向があり、軽度の知的障害と発達障害がある」と精神科医から診断されている。

 大阪高検の幹部は、高裁の決定を受け「自白があれば殺人事件と考えるのが合理的」と説明したが、今回のようなケースは他にもあるのではないか。思い込みを排し、供述者の性格や傾向を見極めた上で判断しなければ、誤りは根絶できまい。

 自白の偏重が生み出した冤罪(えんざい)は、1966年の袴田事件など、枚挙にいとまがない。

 再審無罪となった90年の足利事件や97年の東京電力女性社員殺害事件などでは、血痕やDNA型といった客観的な証拠が軽視された。

 高裁が客観証拠である血液検査の数値を重視し、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に沿った決定を下したのは、そうした手法への警鐘とも受け取れる。

 捜査機関だけではなく、裁判所も改めて自戒してもらいたい。