その狭い道に初めて車で乗り入れた人は、直角のカーブが連続する辺りで途方に暮れてしまうという。江戸時代に栄えた阿波水軍の城下町としての歴史を持つ、阿南市の「椿泊の町並み」である。
 
 行くことも戻ることもできなくなったドライバーがふと傍らに視線をやると、車をこすったような痕跡がたくさん残っている。ほうほうの体で椿泊小学校付近までたどり着くと、先ほどの場所を通り抜けたと思われる大きめの車が平然と並んでいる。
 
 無事通過できた安堵(あんど)感に、難所を征服した達成感。加えて「なぜ大きな車がこんなにたくさん」と疑問を感じているうちに、さっきまで胸中にあった後悔の念は薄れるらしい。先人が敵の侵攻を防ぐため、道を進みにくい造りにした歴史を知ると、今度は深い感慨が湧いてくるという。
 
 昨年、民間シンクタンク「ブランド総合研究所」が発表した47都道府県の魅力度ランキングで、徳島県は前年の44位から順位を下げて46位。魅力のない方から数えて2番目というわけである。
 
 そんなことがあるものか。県内各地に根を張った徳島新聞の支局記者が、担当エリアからよりすぐりの「魅力」を探し、3日付の本紙別刷り特集としてお届けした。題して「徳島、いいね」。その冒頭に掲載したのが椿泊の町並みである。
 
 鳴門の渦潮や阿波踊り、祖谷のかずら橋といった定番の観光資源ではなく、知る人ぞ知る、とっておきの「魅力」がそこにある。
 
 阿波市にあるコインスナックでは、昔懐かしいカレーの自動販売機が今も現役だ。
 
 自動販売機は機械化で人件費を減らすのが眼目のはずなのに、ここでは驚くことに、経営者がその一角で寝泊まりしている。有人店舗以上の手間を掛けて人々を迎える不思議なコインスナックである。
 
 日本社会が人口減少にあえぐ今、にぎやかさを増すばかりの山深い集落もある。三好市東祖谷菅生の名頃地区だ。
 
 約30人の住民と共に暮らすのは、その8倍近い230体のかかし。インターネットで知った外国人まではるばる見物に訪れるようになり、一段とにぎわっているそうだ。
 
 まだある。建築家の増田友也氏と聞いてピンと来る人は少ないだろうが、東京都庁舎で知られる丹下健三氏と並び称される「モダニズム建築の権威」と聞くとどうだろう。増田氏の建築物が、鳴門市には19施設も集まっている。
 
 「ごみゼロ」の上勝町で家電製品もゼロで暮らす男性。牟岐町の奇祭・姫神祭のパワー。他に、紹介できなかった場所や人は数多い。
 
 これらの「魅力」の共通点は何か。一つは長い歴史、もう一つは人の温もりではないだろうか。豊かさの尺度が変化しつつある中、今後ますます強い輝きを放つだろう。
 
 埋もれた「魅力」はもっとあるはずだ。周りを見渡し、探してみよう。