旧優生保護法の下、知的障害を理由に不妊手術を強いられたのに、立法による救済措置を怠ったとして、宮城県の60代女性が国に損害賠償を求めて仙台地裁に提訴した。
 
 同様の不妊手術は全国で約2万5千件確認され、うち約1万6500件は強制だったとされるが、国を訴えた例はなかった。被害が深刻で声を上げられず、裏付けとなる資料も乏しかったためだ。
 
 政府は、当事者の苦しみと過去の誤りに真摯(しんし)に向き合わなければならない。訴訟と並行して、被害の全容把握を急ぎ、救済に動きだすべきだ。
 
 旧法は「不良な子孫の出生を防止する」という優生思想に基づき、1948年に施行された。
 
 知的障害や精神疾患などを理由に、本人の同意がなくても不妊手術を認めるもので、53年の国の通知は、だました上での手術も容認した。宮城県に残る資料では、半数以上が未成年だった。その非人道性にがくぜんとする。
 
 批判の高まりを受け、障害者差別に該当する部分を削って母体保護法に改定されたのは、施行から半世紀近くもたった96年のことである。
 
 原告の女性は、15歳だった72年に遺伝性精神薄弱と診断され、不妊手術を受けた。その後、体調が悪化し、不妊を理由に縁談も断られ、結婚の機会を奪われたと訴えた。
 
 1歳の時に受けた別の手術が原因で知的障害になったのに、遺伝性と誤診された可能性があるとも指摘。憲法が保障する個人の尊厳や自己決定権を侵害されたと主張した。
 
 女性が提訴できたのは、宮城県に「優生手術台帳」の情報開示を求め、全国で初めて開示されたことが大きい。
 
 約2万5千人が受けたとされる不妊手術の関連資料は、共同通信の調査で、19道県に約2700人分現存していることが分かった。一方、それ以外は保存されていない恐れがある。徳島県などは「保存期間が経過したため廃棄」したとしている。
 
 関連資料は被害を明らかにする重要な証拠となる。政府は保存状況の調査に、早急に取り掛かる必要がある。都道府県も改めて存否を精査するとともに、請求があれば現存分を積極的に開示すべきだ。
 
 忘れてはならないのは、旧法の基になった優生思想が今も根強く残っていることだ。2016年に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件は、その表れといえよう。
 
 障害者団体や支援者らは、国を挙げた旧法の総括が必要だと訴えている。
 
 政府は「当時は適法だった」として謝罪や補償に応じていない。だが、同様の法律で不妊手術が行われたスウェーデンやドイツは、国が被害者に謝罪し、補償している。
 
 原告女性を支えてきた義理の姉は「障害者差別がなくなる世の中をと思い立ち上がった」と語った。
 
 私たちにも向けられた言葉である。社会全体で受け止めなければならない。