<いいえ昨日はありません/今日を打つのは今日の時計/昨日の時計はありません/今日を打つのは今日の時計>(三好達治)。過ぎた日を数えてみても、残っているのは明日だけ。幾つになろうと、動かしようのない事実である
 
 美馬市美馬町の清水げんいちさんは、12月で93歳になる現役の養鶏家だ。山あいの鶏舎を朝に昼に見回り、50グラムのひなを3キロの成鳥にまで育てて出荷している
 
 生育が1日でも遅れれば損失が出る。どれだけ知恵を絞ったかで、もうけは決まる。「よく働きますね」「いいえ、暇にしているのも退屈ですから」
 
 戦時中は中国、細菌戦の研究で知られる731部隊に属した。抑留されたシベリアでは、対ソ戦に備えて独学していたロシア語が生き、難を逃れたことがある。命を懸けたやりとりの中で、ソ連兵が見せた表情の奥に人間の不思議を思った。「まるで違っているはずなのに、日本人と見まがう瞬間があるんです」
 
 長年の、その秘密が知りたくて、82歳で放送大学に入学した。心理学の学位取得まで、もう4年はかかりそう。「ぼけてはいられませんね」「いやいや何を言いますか。大学院にも行くのですから」
 
 真実はおのずと明らかになる。だから、困難に直面しても言い訳はしないとの信念で、来し方90年。まだ見ぬ明日へ、青年学徒は歩みを止めない。