師走に演じられることが多い落語の演目に「芝浜」がある。夫婦の愛情を描いた人情噺(ばなし)で、寒さが厳しくなる時季に心が温まる名作だ

 魚屋は腕は良いけれど、酒好きで失敗ばかり。ある日、大金が入った財布を拾い、その金を当てにして仲間と大酒を飲む。泥酔から覚めると、請求書に女房はおかんむりで、財布を拾ったことは「酔ったあまりの夢だろう」

 今、夢のような好況に沸くのは、東京など大都市の小売り業界か。訪日中国人の大量の買い物を指す「爆買い」が、今年の新語・流行語大賞に輝いた。サンマの「爆獲(と)り」など、「爆」が中国の強烈な振る舞いの象徴となった感も

 トップテン入りしたのは「アベ政治を許さない」と、安全保障関連法に反対する学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」だ。安保関連法の成立は「夢であって」と願う国民も多かろう

 芝浜では、反省した魚屋は酒を断ち、真面目に働いて暮らしは良くなった。大みそかの夜、女房が、立ち直ってもらうために財布を隠していたと告げ、働きをねぎらって酒を勧める。口を付けかけた魚屋は「よそう。また夢になるといけねえ」

 「1億総活躍社会」が掲げられている。夢のようなスローガンは、何を覆い隠すためなのだろう。魚屋が実在したなら、この社会を「夢にしたい」と酒を口にするか。