最後の国民向け演説が、過ぎ去っていく時代へのレクイエムにも聞こえた。オバマ米大統領の8年間。問題は多かったにしても、正論がまだ正論として通用する時代だった。出番を待っているのは、よほど違った風景かもしれない

 「軽蔑は軽蔑を呼び、暴力は暴力を生む」。ゴールデン・グローブ賞授賞式でトランプ次期大統領を批判した女優メリル・ストリープさんの発言は、疑いの余地もない正論である。ただし

 「惨敗したヒラリーの腰巾着。ハリウッドで最も過大評価された女優の1人」。ツイッターで反撃したトランプ氏の物言いは、あまりにも品がなく、非常識だ。それでも

 大統領選を制したのは、ほかならぬトランプ氏なのである。支持者が敵視したのは、ストリープさんのような正論を説く階層だった。一方の言葉が壁に阻まれ、一方にはまるで響かない。正論がその地位を滑り落ち、限られた人々の言葉となりつつある

 俺様第一主義が幅を利かせ始めている。著しい格差に怒る人々の代表が大富豪のトランプ氏とは、皮肉の効いた喜劇のようだが、それほど事態は深刻ということだろう

 戦争の惨禍を、世界は嫌というほど経験してきた。「民主主義の維持には、相違を超えて結束することが重要だ」とオバマ氏。回り道であろうとも、進むべき道は正論の中にしかない。