徳島の味は忘れられないらしい。普通より少し太いが歯応えがあって清涼感もある。もっぱら半田そうめんを買っている、と徳島を離れた人が言う

 身びいきと言われそうだが筆者も、確かに半田が好みだ。「コシの強さにノドが鳴る」と県外の人にも勧めている。みそラーメン風、ベビーリーフとサバ缶のシチリア風、焼きそば風…とレシピも多彩だ。春先には、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた中東最大の見本市「ガルフード」にも出展した

 半田、小豆島、淡路島、三輪、それに播州―。郷里が兵庫県姫路市のドイツ文学者の池内紀さんは「播州派」である

 幼い日の夏、むせ返るようなせみ時雨を背に、<空腹で喉がひきつれた。ガラスの容器を握りしめ、まっ白な「糸」をすくって音高くすすった。とりわけ最初のひとくちは、気が遠くなるほどうまかった>と「昭和、あの日あの味」(月刊「望星」編集部編、新潮文庫)に一編を書いている

 父が病死し、母がまっ黒になって働いていたころ。のべつ食べていたという池内さん。<私はながらくソーメンを、具とともに食べるということを知らなかった>とも記している

 料理方法はいろいろあれど、氷でしめて、一息にすする。これは最高だ。じりじりと照りつける太陽の下、池内少年がわれを忘れて食べたように。