「夢を蒔(ま)く」。私と小松、私と中国という副題がついた本が届いた。著者はコマツの社長、会長を務めた安崎暁(さとる)さんである

 程なくして本紙の広告に載ったのが「感謝の会」の案内だ。がんにかかったことを公表し、お世話になった方々に「感謝の言葉を述べたい」「ありがとうと言ってお別れしたい」と。電話の声はよどみなく、力強い

 いつもそうだが、話すたびに元気をもらう。終戦直後、吉野川市鴨島町で暮らし、祖父に教わったのは漢詩、論語だった。杜甫、李白、白楽天…。背筋の伸びた文人を前に、詩を学ぶ安崎少年の姿が思い浮かぶ

 余生3等分主義で、その一つが「世のため、人のため」だ。昨年11月の小欄で紹介したが、10年間、私費を投じて市内の小中学校教員を海外に派遣した。先生はいわば「夢を蒔く」人だから、というように。受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の人に送る「恩送り」

 体調は悪かったが、先月9日の東京徳島県人会にも足を運び「乾杯」の発声をしたという。「いつも二人前食べていたのに、何も食べずに帰ったから『変だな』と思われたかもしれない」。今の心境は「天命に任せる」である

 「夢を蒔く人」主催の「感謝の会」は来月11日、都内で開かれる。異例の会だが、「ありがとう」という気持ちを贈り合う集いになるだろう。