母さんが夜なべをして、手袋を編む。遠い日によく見られた光景なのだろう。安い輸入品がいくらでも出回っていては、母の愛も手袋では見合わない。夜なべも残業に取って代わられた

 「かあさんの歌」の作者で音楽家の窪田聡(くぼたさとし)さんは82歳になる。岡山県瀬戸内市に居を構え、出前コンサート(問い合わせは鈍(どん)工房<電0869(34)5937>)も行っている。東京出身で戦争中、長野に疎開した時の体験からイメージを膨らませ、歌詞を書いた

 3番に、あかぎれを痛がる母さんが「生みそ」を擦り込む場面が出てくる。謎だった。塩分が染み、よけいひどくならないか。尋ねると、手作りだったのがみそ。大豆を煮てつぶし調味料を入れる前の状態を「生みそ」と呼び、信州では実際に治療に使っていたらしい。名は同じでも量販店に並ぶのとは別物だ

 手袋もみそも買うのが当たり前、お金が全ての世の中である。物は豊富になったけれど、いろりのにおいのする歌の世界に引かれるのは、忘れてしまった豊かさのヒントがそこに隠れているからだろう

 他にも忘れかけていることがないか。「戦争が終わって、ぽっかりあいた空から光が差した。その日差しも薄れている」と窪田さん

 きょう寒の入り。体にこたえる日々が続くが、暖かな日差しは必ず戻る。その日まで耐えて待つ。