新訳が出たので飛びついた。1日の読書時間を聞かれて、半数以上が「ゼロ」と答えた大学生ほどではないにしろ、老眼で活字を追うのも少々面倒になってきた。それでもこの本は別格だ。無論、個人的には、とのただし書きが付くが

 手に入れたのは「ハックルベリー・フィンの冒けん」(研究社)。開ければ何やら白っぽい。「冒けん」の交ぜ書きからも分かるように、全編にわたってひらがなが多い

 「しゃべっている声が聞こえてくるのがこの本のマジック。それを生かした訳にしようと思った」と翻訳家柴田元幸さん。ハックにこの漢字は書けるか、と自問しながらの作業だったという

 これも個人的には、ではあるが、年とともにこらえ性もなくなってきた。せっかくの新刊、初めから順序よくといきかけ、辛抱たまらず有名な場面へと飛んだ。ハックの独白、新訳は?

 一緒に旅をしてきた友人で逃亡奴隷のジムを裏切るか、それとも救って「地ごくに行く」か。「ならおれは地ごくに行こう」。その一言、やっぱり震えたね。心の老化はそれほど進んでいなかったか、と少し安心もした

 舞台は19世紀の前半、奴隷の逃亡を助けると罪に問われたころの米国。正義や良心に、いかに時代のフィルターがかかっているか、気づかせてくれもする、米文学の扉を開いた一冊、一読あれ。