第九演奏会での歌唱を前に、調整に余念のない山口さん=東京都大田区

 鳴門市出身の声楽家山口克枝さん(57)=東京都目黒区=が11日、東京・西池袋の東京芸術劇場で開かれる「第九特別演奏会」でアルトソロを務める。鳴門市第九を歌う会の理事長として合唱指導に尽力した故・郡曜子さんの長女である山口さんは「母の思いを継ぎ、第九の素晴らしさを伝えたい」と意気込んでいる。

 演奏会は、指揮者の故・近衛秀健氏の最後の弟子といわれる中濱圭氏らが2010年に結成した「近衛楽友会オーケストラ」の主催。当日は、秀健氏の父の故・近衛秀麿氏がベートーベンの原曲を編曲した「近衛版第九」を中濱氏の指揮で楽団約70人が演奏し、山口さんのほかソプラノ、テノール、バリトンの3人のソリストと合唱団約140人が歌う。

 第九ソロは4度目の山口さんは「ドイツ語の歌詞を丁寧に歌いたい。特に『あなたの柔らかい翼のとどまる所、全ての人々は兄弟となる』の部分に心引かれる」と言い、作詞家シラーが詞に込めた平和や人類愛の尊さを観客に届けたいとの思いを抱いている。

 第1次大戦中の板東俘虜(ふりょ)収容所(鳴門市大麻町桧)は福島県会津若松出身の松江豊寿(とよひさ)所長の人道的な運営によってドイツ兵捕虜の自由な活動が認められ、1918年の第九アジア初演につながった。母の郡曜子さんは鳴門高教諭時代から音楽指導に力を注ぎ、「第九初演の地・鳴門」を全国にアピールした。

 山口さんの夫で写真家の利明さん(62)が会津若松出身ということもあって「第九には不思議な縁を感じてきた」と語る山口さん。来年に迫ったアジア初演100年に向け「世界中で歌われ、感動を呼ぶ第九が、古里で初演された史実を発信していきたい」と意欲を見せている。