徳島新聞の社説の書き写しを続けている稲井さん=上板町七條の自宅

 上板町七條の稲井融(とおる)さん(91)が、健康維持を目的に徳島新聞の社説の書き写しを始め、12年目を迎えた。毎日約2時間を費やし、つらいことを忘れられるひとときにもなっている。「書き写しが認知症防止につながっている」と効果を実感し、90歳を過ぎてもなお精力的に趣味や奉仕活動にも励んでいる。

 稲井さんは毎朝、日の出とともに起床し、朝食を取る前に書き写しをする。朝日が差し込む居間に座り、不要になったチラシなどの裏に縦線を引いた上でボールペンで書いていく。1文字ずつ丁寧に書き写すため、毎日2時間はかかるという。

 「1日でも飛ばすと遅れてしまう。その日の社説はどんなことがあっても必ずその日に書く」と決めている。

 2005年、社説を書き写す高齢者を紹介した新聞記事を見たのをきっかけに、「ぼけ防止にまねよう」と始めた。当初は軽い気持ちだったが徐々にのめり込んだ。「世界情勢や県内事情も勉強になる。そうしたことで友人との会話も弾みます」と笑う。

 この間、12年には次男の稲男さん=享年(61)=を、13年には長年連れ添った妻の久子さん=享年(88)=を亡くすなど、つらいこともあった。そうして落ち込んでいる時も書き写しを続け、「没頭している間はつらいことや心配事も忘れられる。それも目的の一つ」と言う。

 今も趣味の民謡講座に月2回通い続けているほか、約20年前からは町内でプルタブを回収し、今年1月には販売益を町社会福祉協議会に寄付した。

 高齢者の1人暮らしを心配し、関東に住む長男を頼るよう勧める知人もいるが、生まれ育った土地への愛着は強い。「書写やプルタブの回収を続けながら、最後までこの地で頑張りたいと思っている」。