「働き方改革国会」と銘打った安倍晋三首相の看板政策に、ほころびが見えた。

 首相が、今国会に提出する予定の働き方改革関連法案から、裁量労働制の適用拡大を削除すると表明した。

 裁量制に関する厚生労働省の実態調査の信頼性に、大きな疑義が生じたためだ。首相自身も野党の追及を受けて関連する答弁を撤回するなど、守勢に立たされている。

 過労死や過労自殺が深刻化する状況で、働き方の見直しは喫緊の課題である。

 だが、調査データに多数の異常値が発覚しており、裁量制を拡大すると訴えても理解が得られないのは当然だ。

 裁量制は、働いた時間に関係なく、あらかじめ定めた時間を働いたとみなして、賃金を支給する制度だ。働き方改革関連法案には、一部営業職などへの拡大が盛り込まれている。

 経済界の要請が強く、政府は多様で柔軟な働き方につながるとして、裁量制の拡大を推進する構えである。

 一方、野党や労働界は「かえって、長時間労働を助長する」と反発している。

 厚労省によると、2011~16年度に裁量制で働き、過労死や過労自殺(未遂含む)で労災認定された人は13人を数える。

 裁量制を拡大する必要があるのか、ないのか。実態調査に細心の注意が求められるのは言うまでもない。

 ところが、労働基準監督官の男性が共同通信の取材で証言したのは、驚くほどずさんな調査ぶりだった。

 この男性は東日本の監督署管内の約10社を調査した。最低賃金などを確認する監督業務も行った上で、一般労働者の残業時間や裁量制で働く人の勤務時間など多岐にわたる項目を聴取。1日で5社を回らなければならず「まともに調べられなかった」と話す。

 問題の13年度労働時間等総合実態調査では、一般労働者の最も長い残業時間の記入欄で1日が「ゼロ」なのに、1週間や1カ月の合計残業時間が記載されている。

 厚労省は、1日の残業時間が1カ月分より長いなどのデータが117件見つかったとしていた。その後、233件が判明したが、重複している可能性もあるという。

 加藤勝信厚労相は、きのうの参院予算委員会で「新たな調査を設計する必要がある」として、裁量労働に関する実態調査をやり直す方針を明らかにした。

 調査の手法など問題点を洗い出した上で、改めて厳格な調査を行うことが大事だ。

 働き方改革関連法案は<1>残業時間の上限規制<2>同一労働同一賃金<3>高度プロフェッショナル制度の導入<4>裁量労働制拡大―の4本柱から成る。

 人口減少社会で労働生産性の向上を図るという狙い自体は否定しない。

 大切なのは、働きやすく、命と健康を守る仕組みになっているかどうかだ。丁寧に論議を深めてもらいたい。