被災地・福島県の春。花の季節はまだ早いが、待たれるのは、三春町の「三春滝桜」の開花だろう。日本三大桜の一つである

 夜空に浮かび上がる、新しい観光ポスターができた。「三春へ」「三春で」「瀧櫻(たきざくら)よ」の3種だ。揮ごうしたのは、地元の福聚寺(ふくじゅうじ)住職で芥川賞作家の玄侑宗久(げんゆうそうきゅう)さん。「夜の時間がなければ、(人を魅了する)昼間の時間はないわけです」

 新著の「竹林精舎」(朝日新聞出版)は、東日本大震災から3年後の福島が舞台だ。震災で両親を亡くし、修行を終えた青年僧侶が無住寺に迎えられ、恋に悩み、そこに住む人たちと縁を結びながら成長する物語

 6日付本紙でも紹介された。一読して思い浮かんだのは「無功徳(むくどく)」という功徳である。目指す道にひたすら没頭し、何を目指していたのかさえも忘れてしまったような若者を応援したい気持ちも湧いた

 あとがきに、こう書かれている。<福島には「風」に運ばれて放射性物質も降下したが、「風」は人生そのものを予測もしなかった方向へ大きく運びもする。「風」とは、仏教でいう「縁起」そのものではないか>

 その風も「竹林の外には吹いてなくても、中に入ると、吹いていると感じることがあるでしょ」と玄侑さん。<いつも「風」を孕(はら)む>竹林が大好きだという。福島との縁を広げる本書にも功徳がある。