江川さん(前列左)の工房で仕事をしていたころの辻さん(後列左から2人目)と巨匠ディック・スミスさん(右から3人目)=1988年7月、東京都調布市(江川さん提供)

 「謙虚で向上心の尽きない情熱家」。第90回米アカデミー賞でメーキャップ&ヘアスタイリング賞に輝いた辻一弘さん(48)=米国在住=について、日本の特殊メークの先駆者で徳島市出身の江川悦子さん(64)=東京都世田谷区=は6日、日本人初の快挙をたたえた。辻さんは若い頃、江川さんの工房に約3年間在籍。ともに特殊メーク界の大御所、故ディック・スミスさんの門下という「教え子であり、同志」だ。「日本人の器用さやリアリティーを生む高い技術が評価されて、うれしい」と喜んだ。

 辻さんの受賞が決まり、江川さんが「おめでとう。言っていた通りでしょ」と送ったメールには、シンプルに「ありがとうございます」と返信があった。1月に帰日した辻さんと会った際に「今回は絶対に取れるよ」と伝えていたという。

 2人の出会いは約30年前。辻さんが弟子入りを懇願したスミスさんが、江川さんを紹介した。1979年から6年間、米国で仕事をした江川さんもスミスさんに師事した。「高校を出た直後の辻君はまだ少年といった感じ。手足の長い子だなあというのが第一印象だった」と懐かしむ。

 独学でメークを学んでいた辻さんは研究熱心で、江川さんが伝えた「徹底的にリアリティーを追求すること。ナチュラルに見えるメークでないと駄目」との言葉を胸に、めきめきめきと力をつけた。「礼儀正しくて腰も低いが、いい意味で普通の人。でもいったんメーク作業に入ると、寡黙に集中していた」

 2012年に肖像彫刻の芸術家に転身した辻さんだったが今回、主演男優賞を受賞した名優ゲーリー・オールドマンさんの指名を受け、期待に応えた。江川さんは「渡米後、対人関係で悩みもしただろうが、メークする相手から信頼を得られるよう努力したことが実を結んだ。今後も、彫刻家との二足のわらじで頑張ってほしい」とエールを送った。

 江川さんも現在、NHK大河ドラマ「西郷どん」のメークを担当するなど、活躍を続けている。「日本人の技術が評価され、特殊メーク界の裾野が広がっていくことを願う。私も引き続き、特殊メークとは見えない特殊メークを目指して精進していきたい」と意欲を見せた。