前川喜平前文部科学事務次官が、2月に名古屋市立中の授業で講演したところ、文科省が市教委に詳細な報告と録音データの提出を要請した。

「圧力」のような過剰な反応だと言わざるを得ない。

その後、要請の前に、自民党文科部会長の赤池誠章参院議員と、部会長代理の池田佳隆衆院議員が、文科省に照会していたことが分かった。

前川氏は加計(かけ)学園を巡る問題で「行政がゆがめられた」として政権を批判してきた。

政府・自民党にとって、好ましくない人物なのだろう。

文科省の市教委へのメールでは、前川氏が文科省の組織的天下り問題で引責辞任したことや「出会い系バー」を利用していたとの報道に言及。授業の内容や目的、前川氏に依頼した経緯、学校の見解など10項目以上を質問した。

校長は、3年ほど前、全国の中学校長が集まる会議で前川氏の話を聞いて感銘を受け、「未来をつくる子どもたちにエールを送ってほしい」と授業を依頼したという。

前川氏は総合学習の時間の講師として、全校生徒や住民らに、不登校になった自らの経験を交えながら、「小・中学校のころは引っ込み思案だったが、人間は自分で性格を変えられる」などと話した。

市教委は、事前、事後ともポジティブな反応ばかりだと文科省に返答している。

前川氏への依頼や講演について問題があるとは考えられない。

文科省は市教委への「要請は主体的な判断」としているが、池田氏の意見を参考にしてメールの文案を修正し、謝礼の金額なども尋ねた。

林芳正文科相は「メールの表現ぶりにやや誤解を招きかねない部分もあった」として初等中等教育局長を口頭で注意したが、教育への政治的介入との見方は否定した。

地方教育行政法は、文科相に「必要な調査を行うことができる」として権限を与えている。

その一方で、戦前の軍国主義への反省から、教育基本法には「教育は不当な支配に服することなく」と明記し、国の関与を制限していることを忘れてはならない。

見過ごせないのは、文科省の説明の変化だ。当初は地元紙の報道で前川氏の授業を把握したとしていた。

だが、自民党議員からの照会を受けたことが判明した後になって、林文科相は、文科省に最初に問い合わせをしたのが赤池氏で、記事を提供したのが池田氏だということを明らかにした。

これでは、国民は不信感を持つだろう。

立憲民主党など6野党は赤池、池田両氏の参考人招致を求めることで一致した。市教委への要請に至る過程で、政権への忖度(そんたく)はなかったのか、国会の場で解明すべきだ。

文科省の対応は、現場の校長らに強い印象を残したはずだ。それが、今後の講師選定などに影響を及ぼすことがあってはならない。