きのう、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が、軍事境界線のある板門店の韓国側施設「平和の家」で初の首脳会談を行った。南北の首脳会談は10年半ぶり3回目で、北朝鮮の最高指導者が韓国に足を踏み入れたのは初めてである。

 世界が注視する中で、両首脳は「核なき朝鮮半島の実現」との目標を確認し、南北の和解と協力などをうたった「板門店宣言」に署名した。

 過去2回の会談でも共同宣言は発表されたが、核問題の深刻化や韓国の政権交代などで関係が暗礁に乗り上げた苦い経験がある。

 二度と後戻りさせてはならない。宣言内容にのっとり、非核化や関係改善へ着実な実行を期待したい。

 両首脳は「朝鮮半島の非核化へ国際社会の支持と協力を得るため、積極的に努力する」と申し合わせた。金氏が非核化への意志を明確にしたものと評価する声もある。

 しかし、国際社会が望んでいるのは「完全かつ検証可能で不可逆的な核放棄」である。具体的な言及がなく、懸念は残ったままだ。

 金氏は先に、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験の中止などを表明したものの、核放棄には触れなかった。今回の会談に向けた事前の実務協議でもほとんど前進はなく、首脳同士による交渉に委ねられていた。

 非核化へどのようなレベルでの合意を引き出せるか、文氏の手腕が問われていたが、結局踏み込まなかった。

 今後の焦点は、6月上旬までに予定されている米朝首脳会談に移る。

 トランプ米大統領は、北朝鮮の非核化について「核兵器を除去すること」と明言。実現まで最大限の圧力をかけ続ける方針を示している。現有の核兵器を廃棄するまで制裁を維持する構えだ。

 一気の非核化か、期限などをつける段階的な非核化で折り合うのか。厳しい交渉になるのは間違いない。文氏は会談内容を米側に詳細に話すとともに、米韓で対北朝鮮への戦略を練る必要がある。

 首脳会談では、日本の懸案事項である拉致問題について触れなかったという。失望を禁じ得ない。

 文氏は安倍晋三首相との電話会談で、拉致問題を取り上げる意向を明らかにしていた。なぜ議題に取り上げなかったのか。

 首相は文氏に説明を求め、あらためて米朝会談で議題に上げるよう強くトランプ氏に訴えてもらいたい。

 宣言ではこのほか、年内に朝鮮戦争終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換すると明記。また、段階的な軍縮の実現や両首脳の定期的な会談などを盛り込んでいる。

 今回の会談で両首脳は新たな歴史の一歩を刻んだ。ただ、平和体制の構築や定着には周辺国の協調と支持が欠かせない。両国には、日本をはじめ関係国との信頼関係を築く努力も求められる。