31年前の憲法記念日、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局で、目出し帽の男が散弾銃を発砲。小尻知博記者=当時(29)=が死亡、犬飼兵衛記者=同(42)、今年1月死去=が重傷を負った。「赤報隊」を名乗る犯人は、同社などを標的に他でも事件を起こす

 一連の事件は2003年に公訴時効を迎えた。それでも同僚たちは犯人を追った。「記者襲撃」(岩波書店)はその執念の記録である。退職後も取材を続ける著者・樋田毅さんの筆は、右翼活動家や、キリスト教系のある教団との緊迫したやりとりを生々しく描きだす

 犯行声明で「反日分子には極刑を」と主張した「赤報隊」は今も身を潜めたままだ。事件後、急速に「右傾化」が進み、樋田さんが強調するように、記者には「覚悟と矜持(きょうじ)」が問われる時代になった

 犯人に尋ねたいことがある。言論の自由を銃弾で封じようとしたあなた方にとって、好ましい時代になったといえるのか

 街頭のヘイトスピーチで、ネット空間で、犯行声明よりもさらに激越で口汚い言葉が公然と飛び交う。それが当たり前になった。これが日本の国土や文化、伝統を愛する者の振る舞いか

 「右傾化」の一言では片付けられない地殻変動が、人の心に起きている。憲法改正論議も、その一つの断面にすぎないのかもしれない。そんな危機感が小欄にはある。