愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から受刑者の男が脱走し、23日目に広島市で逮捕された。

 事件は、脱走者の捜査の在り方や刑務所の危機管理など多くの課題を突き付けた。

 関係機関は早急に改善しなければならない。

 男が脱走した作業場は、開放的な環境で受刑者の更生を促す「塀のない刑務所」だ。 部屋の施錠はなく、内側から窓や玄関扉の鍵を開けることができる。20人の模範囚が入所し、日中は企業の従業員と共に作業している。

 男は窃盗罪などで2015年から服役し、昨年12月から作業場に収容されていた。刑期は20年1月までで、「作業場で頑張って、早く出所したい」と面談で語っていたが、脱走前には刑務官に叱責(しっせき)され、落ち込んでいたという。

 逮捕後、「刑務所での人間関係が嫌になった」などと話しているが、詳しい動機の解明が欠かせない。

 作業場は、全国に4カ所ある開放的施設の一つで、出所後の再犯率は、通常の刑務所を大幅に下回る。

 一方で、1961年の開所以降、今回を含めて17件20人の逃走事案が発生している。 

 有効な再発防止策が取れていない証左である。何度も住民を不安に陥れてきたことは看過できない。

 事件を受けて、法務省では衛星利用測位システム(GPS)を入所者に装着して監視する案や、顔認証システムの導入案が浮上している。施設の意義を損なわず、どこまで監視を強めるか、難しい問題もあろうが、再発防止と住民の安全が優先されるべきだ。

 作業場の対応が後手に回ったのも反省点である。緊急事態が発生した場合は、110番後、速やかに近隣住民に注意喚起を促す放送を流すことになっている。しかし、今回の放送は「受刑者がいなくなった」との110番から、1時間40分も遅れた。報道機関への発表は約5時間後だ。

 松山刑務所は「情報収集に時間がかかった」などとしているが、脱走者の追跡や捜査は時間との闘いである。

 脱走後、広島県尾道市の向島で逃走に使ったとみられる盗難車が発見され、広島、愛媛両県警は島内に男が潜伏しているとみて捜索していた。

 向島には空き家が千軒以上も点在し、捜査が難航する一因となった。逃走者の隠れ家だけでなく、犯罪の温床になる恐れもあるだけに、警戒を強めておきたい。

 向島全域の幼稚園、小中学校などには、厳重な警備が敷かれた。逮捕まで時間がかかったことで、子どもや保護者のストレスは大きかったようだ。心のケアが大切である。

 結果的に広島市で逮捕されたのは、インターネットカフェの店員の通報がきっかけだった。男は「向島で空き家などの食料品を食べて潜伏し、海を泳いで本州へ渡った」という趣旨の供述をしている。

 両県警は追跡捜査に予断はなかったか、検証すべきだ。