北朝鮮を巡り再び軍事的な緊張が高まるのだろうか。

 トランプ米大統領が、6月12日にシンガポールで予定していた米朝首脳会談の中止を表明した。北朝鮮側の「敵対的な言動」を理由に挙げたが、非核化の進め方で事前交渉が暗礁に乗り上げていたことも影響したようだ。

 北朝鮮の「完全な非核化」に向けた歴史的会談を、期待を持って注視していただけに残念である。

 ただ、対話の扉が完全に閉ざされたわけではない。

 トランプ氏は中止を発表した金正恩朝鮮労働党委員長への書簡の中で、「いつか会えることに期待する」と記し、北朝鮮側も「いつでも向かい合って問題を解決する用意がある」との談話を発表した。

 対立の溝を埋めるには、米朝の直接交渉が不可欠だ。粘り強く再開の糸口を探り、会談にこぎ着けてもらいたい。

 トランプ氏は22日の文在寅韓国大統領との会談の際、米朝会談の延期の可能性を示唆し、その後、来週中に予定通り行うかどうか判断すると述べていた。その矢先の中止表明だけに驚きを隠せない。

 確かに、最近の北朝鮮はこれまでと態度が一変、非核化への真意を疑わせる言動が目に付くようになった。

 トランプ氏は、金氏が完全な非核化に応じれば、体制の保証や経済支援の用意があるとするなど一定の配慮を見せていた。しかし、北朝鮮は非核化の行動ごとに制裁緩和などの見返りを得る「段階的措置」を求めて譲らなかった。

 また、北朝鮮は会談に向けた準備会合を一方的に欠席したほか、24日に実施した核実験場の廃棄についても、検証するための外部専門家の受け入れで約束が守られなかったという。

 こうした対応に、トランプ政権内でも金氏への不信感が強まっていたようだ。

 北朝鮮の態度が変わった背景に、中国の存在があることは明白である。

 金氏は、習近平国家主席と2度にわたって会談し、中国の後ろ盾を得たことで強気に転じたとみられる。

 一方、中国は北朝鮮の「段階的措置」を支持。後見役としての存在感をアピールし、朝鮮半島情勢で主導権を握ろうとしている。

 中朝国境では国連制裁が継続中にもかかわらず、人や物資の往来が活発になってきているという。トランプ氏が不快感を示すのも当然だ。

 会談中止は、対話路線を追求し米朝の橋渡し役を自任する文氏にとっては、想定外の事態だろう。

 4月の南北首脳会談で「完全な非核化」を共通目標とすることを確認、米朝会談の実現にも自信をみせていただけに、失望を禁じ得まい。

 それでも、文氏の役割は重要だ。直通電話で金氏に改めて非核化への決断を訴えるべきだ。さらに中国にも、制裁の継続を求めるととに北朝鮮へ自制を促すよう働き掛ける必要がある。