犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が施行されてから、きょうで丸1年になる。

 これまで共謀罪が適用された例はない。捜査当局は、要件が厳しく、ほとんど使う機会がないとしている。

 捜査機関が拡大解釈して権限を乱用する恐れのある法だけに、抑制的な運用が求められている。今後も目を光らせていかなければならない。

 法の改正時、与野党が激しく対立し、市民の大規模な抗議行動も起きたことは記憶に新しい。先月には市民団体などが東京都内で開いた集会に、国会議員を含む約300人が集まり、共謀罪の廃止を訴えた。

 政府は「取り締まりの対象はテロ集団や暴力団など組織的な犯罪集団で、一般市民には適用されない」と説明してきた。しかし、共謀罪廃止の声がやまないのは、市民の不安が今もって払拭されていないからだ。

 その原因は、改正法の成立過程を見れば明らかだろう。
捜査や刑事裁判に関わる法案はしばしば、「個人の自由や人権、プライバシー保護」と「治安の維持、安全・安心の確保」との対立を引き起こす。両者のバランスをどう図るかが大切であり、そのためには、議論の積み重ねが欠かせない。

 にもかかわらず、安倍政権は「数の力」で、参院法務委員会での審議を打ち切って採決を省き、いきなり本会議に持ち込んで成立させた。

 政府は、東京五輪に向け、国際組織犯罪防止条約を締結してテロを防ぐためには、共謀罪新設が不可欠だと主張した。だが、この条約はテロではなく、マフィア対策を念頭に置いており、テロ防止の効果は薄いとみられている。

 何より、対象となる犯罪は300近くに及び、組織犯罪と関係が薄いとみられるものも含まれていることから、一般市民が巻き込まれる危険性を否定できない。

 犯罪と関係のない在日イスラム教徒らの動きを見張る。選挙時に野党の支援団体が入る建物に隠しカメラを設置する。近年、警察が行き過ぎた監視に走ったケースだ。

 改正法の施行後、目に見えて犯罪の摘発が勢いづいたり、通信傍受が強化されたりしているわけではないが、じわじわと市民への監視が強まっていく可能性がある。

 こうした懸念に対し、兵庫県宝塚市が講じた措置は注目に値する。

 市は、街頭に設置を進めている防犯カメラの映像を捜査機関に提供する際、共謀罪に関する場合は、裁判所の令状がないと認めない運用要綱を定め、昨年10月から適用している。市民の共謀罪への不安や人権保護に配慮した市の姿勢を評価したい。

 ごり押しで成立に至った改正法の危うさは、施行後も何ら変わらない。市民は、共謀罪への不安や疑念を訴え続けていく必要がある。