国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、湾を閉ざした堤防を開けるよう国に命じた2010年の確定判決を無効化する異例の判決を、福岡高裁が言い渡した。

 確定判決に従わない国の姿勢を事実上追認し、「ごね得」を許した格好だ。有明海の環境悪化を訴える漁業者は司法の形骸化にもつながりかねない、と反発している。

 「開門」と「開門禁止」の異なる司法判断が並立する”ねじれ状態“は一応解消されたが、漁業者側は最高裁で争う構えだ。問題解決には程遠いと言わざるを得ない。

 賛否両論あった巨大公共事業で湾が閉め切られ、21年がたつ。事業は農地造成と高潮対策が目的で、国は農地約670ヘクタールと農業用水を供給する調整池約2600ヘクタールを整備した。総事業費は約2530億円に及ぶ。

 農林水産省の統計では、漁業への影響は顕著だ。佐賀県沖で1990年に1万9000トンあった貝類の漁獲量は、2016年には1500トンまで激減した。高値がつく二枚貝タイラギは12年から休漁に追い込まれている。

 農水省は、堤防閉め切りが与える影響は限定的とするが説得力に欠ける。原因究明には、開門調査も必要というのが専門家の見方だ。

 佐賀地裁が08年、国に5年間、常時開門するように命じたのは、こうした事態を受けてのことである。福岡高裁もそれを支持。当時の民主党政権は上告せず、「開門」判決が確定した。

 本来ならその時点で、海水流入による干拓地農業への影響に配慮しつつ、開門調査に踏み切るべきだった。しかし国は具体策の検討を怠ったばかりか、営農者が開門しないように求めた裁判で、十分争わずに敗訴。司法判断は「開門」「開門禁止」に割れることとなった。

 国の本音がどこにあったかは明らかである。漁業者にこれまで、約12億円に上る法的制裁金を支払ってまで、「閉門維持」にこだわってきた。開門すれば、巨大公共事業の正当性すら疑われる事態に発展しかねないからだ。

 今回の判決は、事業の是非には踏み込まなかった。「共同漁業権は既に消滅し、漁業者に開門請求権はない」と、門前払いに近い形で漁業者側の逆転敗訴とし、国に科されていた制裁金の支払いも免除した。「漁業権は存続し、漁業被害も続いている」と主張してきた漁業者側にとっては到底理解し難い判決だろう。

 開門に代わる措置として、国は漁業支援のために100億円の基金創設を提案している。高裁も和解するよう勧告したが、国に不信感を抱く漁業者側は拒否。この案での合意の道は険しい。

 舞台は最高裁へと移るが、問題を司法の場で決着させるのは難しかろう。有明海を再生し、利害の対立する漁業者と営農者の双方を納得させる新たな解決案を示す責務が、国にはある。