トルコの通貨リラが急落し、経済基盤が脆弱な新興国を中心に世界的に金融不安が広がっている。

 トルコ在住の米国人牧師の拘束問題を巡り、トランプ米政権がトルコの鉄鋼などへの関税を倍に引き上げると表明したからだ。

 これに対し、トルコ政府も報復として米国の輸入車などに追加関税を適用するなど、対立が激しくなっている。

 米国とトルコはともに北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だ。関係悪化により、中東の地政学的なバランスが崩れ、予想外の混乱につながる懸念も高まっている。

 報復の応酬は双方とも痛みを伴う。両首脳は強硬姿勢を改め、対話によって解決の糸口を探ることが重要だ。

 リラは10日に対ドルで約20%も急落し、一時1ドル=7リラ台まで売られた。トルコ国内で急激なインフレが進む中、米国の制裁が重しとなった。

 この影響で、南アフリカのランドやアルゼンチンのペソなど新興国の通貨も下落。トルコ向け債権を保有する欧州の銀行にも波及している。

 高インフレの抑制には利上げが必要だ。経済界からも金融引き締め政策を求める声が高まっている。しかし、エルドアン大統領は利上げに否定的なうえ、米国製品の不買運動を国民に呼び掛けるなど、反米姿勢を強めている。

 エルドアン氏は、強い指導者として国民の支持を集める一方、経済手腕を疑問視する声は少なくない。

 インフレ、通貨安にもかかわらず低金利の維持を進めている。中央銀行には利上げをしないよう圧力をかけているとされる。

 インフレや通貨の下落は市民生活を直撃する。エルドアン氏は、自国経済の安定へあらゆる施策を実施する責務がある。

 今回の制裁について、米国は「経済戦争」との構図を否定する。国際社会の視線を米国人牧師の拘束という、人道面に向けさせたい思惑があるようだ。

 ただ、2016年10月から続く牧師拘束を、なぜ今になって問題視したのか。

 牧師が、トランプ氏の支持基盤であるキリスト教福音派で、11月の中間選挙を前に、解放を実績としたいため、との見方もある。

 いずれにせよ、国家間対立まで発展させたことには首をかしげざるを得ない。トランプ氏の中東政策に対し「熟慮の跡がみえない」(日本外交筋)との指摘ももっともだ。

 懸念されるのはエルドアン氏が「新たな同盟国を探す」とまで言い放ったことだ。反米のロシアやイラン、中国などを念頭に置いた発言だろうが、中東で「米国は信用できない」との風潮が強まっていることの証左でもある。

 米国とトルコの対立は世界経済だけでなく、地域の安全保障などにも影を落としている。両国の同盟国は強い危機意識を持ち、早期の事態打開に努めてもらいたい。