人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経のもとになる細胞を作り、パーキンソン病患者の脳内に移植する、世界初の臨床試験(治験)を京都大が始めた。年内にも1人目の移植を実施する。

 iPS細胞から作った細胞を移植する計画は、目の難病と心臓病に続いて3例目となる。先の2例は臨床研究で、国の基準がより厳しい「治験」は今回が初めてだ。

 成功すれば、製薬会社と連携して製剤化し、新たな治療法として保険の適用を目指す。再生医療の切り札とされるiPS細胞の本格的な利用に向けて、重要な一歩となるだろう。

 ただ、有効性や安全性、費用など課題も多い。成果を焦らず、患者を第一に、慎重に進めることが肝要だ。

 パーキンソン病は、脳内で情報伝達物質ドーパミンを出す神経細胞が死滅し、体を動かしにくくなったり、震えが起きたりする病気だ。薬の効果も限定的で、根本的な治療法はまだない。50歳以降に発症する人が多く、国内の患者は推定16万人に上る。

 実施チームによると、治験の対象患者は7人。京大が備蓄している、拒絶反応を起こしにくい特殊な免疫の型を持つ人の血液で作ったiPS細胞を用いる。これを神経のもとになる細胞に変え、患者の脳の中心に近い部分に注射すると、脳内で神経細胞になり、ドーパミンを分泌して症状を和らげるという。

 「根治に近い状態を作り出せる」と、京大の高橋淳教授は胸を張る。闘病を続ける患者の期待も大きい。

 神経細胞を補う方法は有望で、研究の蓄積もあるが、海外では中絶胎児の神経を移植するなど、倫理的に問題があり、数にも限りがあった。

 iPS細胞から神経細胞を作れば、確かにこうした懸念は小さくなろう。半面、神経のもとに変化しきっていない細胞が混じると、脳内で腫瘍になる危険がある。安全性に問題はないか、しっかりと見極めつつ行う必要がある。

 iPS細胞が発表されたのは2007年。14年には、理化学研究所などが世界初の移植を、重い目の病気の患者に実施した。それを皮切りに心臓病やパーキンソン病のほか脊髄損傷や血液の病気などで臨床研究や治験が実施、計画されている。

 成長戦略の柱の一つとして、国も膨大な研究費を投じており、世界のトップを走っているのは疑いない。だが、iPS細胞偏重といえる日本の状況には厳しい見方があるのも事実である。

 海外では、もう一つの万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)の研究が盛んだ。遺伝子治療など別の治療法の研究も進んでいる。

 iPS細胞を使った再生医療では高額な費用がかかり、合併症の報告もある。費用に見合った効果はあるか、そもそも本当に有用な治療法か。世界初に期待する一方で、冷静な目も持ち合わせたい。