トランプ米大統領は、今週中に予定されていたポンペオ国務長官の北朝鮮訪問を中止させた。

 6月の米朝首脳会談で合意した北朝鮮の非核化を巡り、「現時点で大きな前進があるとは思えないため」というのが理由のようだ。

 トランプ氏はこれまで「北朝鮮の核の脅威はもはやない」などと会談の成果を強調してきたが、現状は非核化に向けた実質的な進展がほとんどないことを認めた形だ。

 突然の中止発表は「トランプ流の駆け引き外交」との見方もあるが、米朝交渉が不透明感を増し、停滞するリスクが高まることも予想される。

 非核化とともに、日本の最重要課題である拉致問題も膠着状態にあり、このままでは首脳会談前と同様の緊迫した状況になりかねない。

 トランプ政権は、再び金正恩朝鮮労働党委員長と首脳会談を行うことも視野に、事態の打開へ動いてもらいたい。

 首脳会談後の米朝交渉は、北朝鮮が非核化の前提として朝鮮戦争の終戦宣言を要求しているのに対し、米側は迅速な核放棄を要求。互いに譲らず、難航したままだ。

 訪朝中止は、直前に北朝鮮から「攻撃的」な内容の書簡を受け取り、十分な成果が上げられないと判断したため、との報道もある。

 ただ、トランプ氏は首脳会談前にも、北朝鮮側の言動を理由に中止を勧告、その後予定通り会談した。

 今回の判断も、北朝鮮のかたくなな態度に業を煮やし、得意の揺さぶりをかけようとした可能性がある。

 問題は、トランプ氏が中止を表明したタイミングだ。ポンペオ氏が訪朝を公表した翌日というのは、いかにも唐突の感が否めない。

 米朝交渉を主導しているポンペオ氏の立場が揺らいでいるのではないか。政権内で食い違いが生じているとすれば事態は深刻だ。

 日本と韓国の両政府は、ポンペオ氏の訪朝でなんらかの成果や前進があるものと期待していただけに、失望が広がっている。

 とりわけ韓国は、9月に平壌で南北首脳会談を開催することで合意しているが、影響を懸念する声も出ている。近く開設予定だった南北共同連絡事務所も、延期になる恐れがあるという。

 米政権は、日韓と齟齬を来さないようにするためにも、訪朝中止の経緯や今後の米朝交渉の進め方についての丁寧な説明が求められる。

 非核化が停滞している背景としてトランプ氏は、北朝鮮への圧力政策で中国が十分に協力していないことを挙げ、激化する貿易摩擦との絡みにも言及している。

 核問題を米中貿易の取引材料にしようとの思惑も見える。事実なら、問題を複雑化させ、非核化へのハードルを上げるだけだ。

 対北朝鮮政策を巡り米政権はいま一度、戦略を練り直す必要がある。