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社説
5月2日付  憲法(中)緊急条項  「お試し改憲」は疑問だ  
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 憲法改正の候補に挙がっている項目の中で、有力とされるのが「緊急事態条項」の新設である。
 大規模な自然災害や外国からの武力攻撃などに対応するため、内閣に権限を集中させるというものだ。

 必要性を唱える人たちは、この条項を憲法で設けている国が多く、日本でも書き込むべきだと主張する。安倍晋三首相は「緊急時に、国家、国民自らがどのような役割を果たすべきかを憲法にどう位置付けるかは、極めて重く、大切な課題だ」と述べている。

 だが、本当にそうした条項が憲法に不可欠なのか。権限を内閣に集中させるのは危険ではないのか。疑問は多く、さまざまな観点からしっかりと検討する必要がある。

 緊急事態条項の新設を求める主張の背景には、国民の理解が得られやすく、改憲の突破口にしやすいとの思惑が見え隠れする。いわゆる「お試し改憲」である。

 これに対し、野党だけではなく、与党の公明党からも、法律で対処できるとの意見が出るのも当然だ。

 緊急事態条項は、自民党の憲法改正草案に盛り込まれている。

 首相は緊急事態が発生した場合、特に必要があると認めるとき、閣議にかけて、緊急事態宣言を出せると規定。その上で、内閣は法律と同じ効力を持つ政令を制定でき、何人も、国民の命を守るために出される国や公の機関の指示に従わなければならない、という内容だ。

 緊急事態条項が浮上したのは、2011年3月の東日本大震災がきっかけだった。未曽有の津波被害と原発事故を前に、国や自治体、関係機関の対応は後手に回った。その不手際が強い批判を浴びたためだ。

 とはいえ、この条項が憲法にありさえすれば、十分に対処できたのだろうか。

 日本には災害対策基本法や災害救助法などがあり、緊急事態に備えた仕組みは諸外国に比べて充実している。大震災でうまく機能しなかったのは、運用のまずさや準備不足が原因だったのではないか。

 求められるのは、現行法を使いこなし、足りない点があれば法改正などをして補うことだ。外国からの攻撃に対応する有事法制も既に整備されている。抽象的な条文を憲法に書き込み、屋上屋を架す必要性は乏しいだろう。

 見過ごせないのは、自民党草案が、何人も国や公の機関の指示に従わなければならないと規定していることである。基本的人権は最大限に尊重するとしているものの、過度な人権制限や政府による乱用の懸念が拭えない。

 法律の専門家らからは、発動されると「ナチスの独裁を許した全権委任法と実質的に変わらない運用をされる危険性がある」といった懸念の声が上がっている。過去の歴史を振り返ると、杞憂とは言えまい。

 他国の憲法に緊急事態条項があるのは確かだが、強権発動を盛り込んだ国でも、「国の独立が重大かつ直接に脅かされる」場合に限定するフランスや、「国会の招集が不可能なとき」に限る韓国のように、厳しい要件で歯止めをかけているのが一般的だ。

 「特に必要があると認めるとき」とする自民党草案は要件が曖昧である。

 大災害への対応という反対しにくい分野を改憲の手始めにしようとするのなら、国民軽視と言わざるを得ない。

 聞き心地の良い言葉に隠れた本質を、見極めなければならない。

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