「黒島の女たち」を刊行 城戸久枝さん(徳島大学出身)

徳島大出身のノンフィクション作家城戸久枝さん=松山市生まれ、横浜市在住=が、「黒島の女たち 特攻隊を語り継ぐこと」(文芸春秋)を刊行した。戦時中、不時着した特攻隊員と介抱した住民との70年以上にわたる交流と、戦争体験を語り継ぐ人たちの姿を描いている。徳島新聞4月19日付文化面に掲載した記事を再構成し、城戸さんへのメールインタビュー全文を紹介する。

「黒島の女たち 特攻隊を語り継ぐこと」の表紙

1945年春、鹿児島県沖の小さな島「黒島」に特攻隊員が不時着し、島民は精いっぱい介抱した。命を救われた元特攻隊員と黒島の人たちとの交流は現在まで続いている-。

城戸さんは2年前、映画監督の故小林広司さんのドキュメンタリー番組と著書「黒島を忘れない」をきっかけに黒島を知った。「黒島の女たち」には、戦時中のエピソードと、城戸さんが取材した黒島での慰霊祭の様子や、小林さんの遺志を継いだ妻ちえみさんの物語が織り交ぜられている。

城戸さんは、中国残留孤児だった父の半生を追った「あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅」(2007年)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。戦争体験の継承をテーマに執筆を続けている。

今作では、戦争を経験していない世代が戦争を語り継ぐことをテーマに据えた。戦争体験者の話を聞く機会が減る中で、体験者の思いを次世代につなげていくことが重要だと感じている。

城戸久枝さん

 城戸さんメールインタビュー全文

【戦争を体験していない世代が戦争を語り継ぐことを描いています。】

戦争を体験していない者にとって、あの戦争ははるか昔の話かもしれません。体験者から直接話を聞く機会がこれからさらに減っていくなかで、体験していない者がその思いを受け継いで次世代につなげていくことが今、一番大切なことなのではないかと思います。

私は中国残留孤児の娘として、家族がその思いを受け継ぐことが一番の理想であり、大切なことだと思ってきました。ただ、今回黒島の方々や小林ちえみさんを取材して感じたことは、誰しもが家族の歴史を聞ける状況にあるとは限らないということです。そして、家族でなくても、いや、むしろ家族ではないからこそ、受け止めることができる思いもあるのだと感じました。

残された時間はほとんどありません。だからこそ、私たちそれぞれが、体験者の思いを少しずつでも受け継いでいく必要があると思うのです。千人いれば千通りの歴史がある、千人いれば、同じように千通りの記憶の伝承方法はある。そう強く思っています。

【作中では、戦時中の出来事と2000年代以降の動きが織り交ぜられています。表現する上で心掛けたことはありますか?】

私が黒島を知ったきっかけは、小林広司さんのドキュメンタリーと著作「黒島を忘れない」でした。70年前の出来事については、この本に詳しく書かれています。そこで、私ができることは何か。若い世代や子どもたちにも、手に取りやすい本にできたらと思っていました。

子どもたち、あるいは戦争の話はちょっと苦手だなと思うような人が手にしたとき、気軽に読んでもらえるように、できるだけ難しい専門用語は使わないで、シンプルに当時のことを書こうと思いました。まず手に取ってもらうことが大切だと思っています。そして、もっと黒島のことを知りたいと思った人は、ぜひ「黒島を忘れない」を読んでいただけたらと。

「黒島の女たち」を読んだ方の多くが「黒島を忘れない」も読んでみたいとおっしゃいます。それが私にとっては、とても嬉しいのです。

【これまでの城戸さんの作品も「語り継ぐ」ことに主眼が置かれています。今作の取材・執筆を通して、戦争の記憶を語り継ぐことについて、思いが変わった部分、一層思いを強くしたことはありますか?】

「なぜ戦争を語り継がなければならないのか」と、ある若者に聞かれたことがあります。私は愕然(がくぜん)としました。私にとって、戦争は当然語り継ぐべきものだったからです。でもそれも考えなければない時代になったのだと、正直逃げたくもなりました。

そんな時期に黒島に出会い、黒島とかかわるようになり、小林夫妻の物語を追うようになって、わたしは「戦争を語り継がなければならない」と片意地を張りすぎていたのではないかと気づきました。もっと、感じることが必要なのではないかと。

黒島の人びとの記憶の中にあるあの戦争の時代は、決して苦しいことばかりではありませんでした。もちろん、辛い経験もたくさんされています。でもそのなかには、私たちが今を過ごしている日常と変わらない、普通の人びとの生活もあったのです。島のおばあちゃんたちの言葉を聞いていると、まるでつい昨日のことのように、特攻隊員の人びとの日々を語られています。淡い青春時代の思い出を語っているように聞こえることもありました。

だから、戦争を語り継ぐことで大切なのは、(もちろん悲惨な歴史を繰り返さないという思いは重要ですが)その時代が自分たちの今と遠く離れているわけではないのだと、自分の生きる今と地続きにあるのだということを感じることなのだと思ったのです。

【今作をどの世代に、どのように読んでもらいたいですか? また、今後の抱負を教えてください。】

私は特に、20代、30代、40代の若い世代の人びとに読んでほしいです。誰にでも記憶の継承はできる。今、直接体験者の話を聞ける最後の時です。特に、自分につながる家族の歴史などを、それぞれの形で聞いてもらって、またその次の世代へと、その記憶をそれぞれの形で継承してほしいと思うのです。それぞれが小さな小さなエピソードかもしれないけれど、集まれば大きな歴史のうねりになると思っています。

私が今後したいことは、いくつかあります。まずは、そういった記憶を継承しようとする人びとについて、取材を重ねていきたいと思っています。もちろん体験者への取材も引き続きしていきますが、私の力は小さなものです。なので、それぞれがどんな風に記憶の継承作業をしているのか、そういう人たちについて、より多くの人に知ってもらいたいのです。

8月には去年に引き続き、新潮講座で「戦争の記憶を継承する方法」を開く予定ですが、聞き取った戦争の記憶をどう記録していくのか、皆さんの手助けになるようなものを、作りたいと漠然と思っています。

そして、今6歳、小学1年生の息子がいます。息子に、中国残留孤児だった父の物語を伝えていきたいと思っています。児童書や絵本なども作れたらと考えています。

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