車種絞り台数維持、市場拡大に備える

経済ビジネス情報の“NNA”『カンパサール』

トヨタ・ベトナムの選択

東南アジア諸国連合(ASEAN)域内での完成車の関税が完全に撤廃される2018年を前に、トヨタ・ベトナム(TMV)の動向に官民からの注目が集まっている。16年のベトナム自動車販売台数は30万台(ベトナム自動車工業会)を突破したものの、タイをはじめとした周辺国に比べて規模が小さく、裾野産業も思うように発展しないベトナムから、トヨタは撤退するのではないか――。一時は国内でそんなうわさも流れた。ただ、トヨタ側はこれを否定。1月からベトナムに赴任したTMVの木下徹社長は、国内での生産車種を絞りつつ台数を維持し、市場の拡大に備える姿勢を示した。(小堀栄之、京正裕之=文、写真)

トヨタ・ベトナムが生産するセダン「ヴィオス」

TMVが現在ベトナムで生産しているのは、セダン「カムリ」「カローラ」「ヴィオス」と7人乗り多目的車(MPV)「イノーバ」の4車種で、国内での年産能力は約5万台。TMVは17年1月に、それまでベトナムで生産していたフォーチュナーをインドネシアからの輸入に切り替えることを決定した。18年以降にタイやインドネシアからの輸入車と競争が激しくなることを見据えて1車種当たりの生産量を増やし、集約化と効率化を進めるためだ。

木下社長は「生産能力が5万台の工場で5車種を作るのは効率が悪く、輸入車とコスト面で戦えない。1モデルで2万〜3万台作れば、ベトナムでの生産車がベトナム国内でのコスト競争力で優位に立てる可能性がある」と戦略を説明する。例えば、タイで生産している車は右ハンドルが多く、ベトナム向けに左ハンドルにする工程を必要とし、これにタイからの輸送コストが加わる。これらを合わせたコスト(現着コスト)を考えると、ベトナム国内で一定の規模を生産できれば、その方が安く済む可能性が高まる。将来的には、一層のモデルの絞り込みも検討している。

生産モデルの選択と集中を進めつつ、年産5万台の生産能力をフルに活用しコスト競争力を高めていくことが、当面はTMVにとっての生き残り策。16年の販売数が1万台以上だったフォーチュナーの穴埋めは簡単ではないが、数年かけてこれを5万台に近づける努力を続ける。

コスト圧縮に向けて木下社長は「人件費の上昇を踏まえた一部工程の自動化にも検討の余地はある」と語る。ただ、手作業主体のベトナム工場では、基本的には「カイゼン」を積み重ねることが主眼となる。現場からの声を積極的に吸い上げて作業の環境と職場の環境を変えていくことで、効率化を進め、品質の向上につなげていく。「ベトナムの人材は勤勉で吸収力が高く、モラルも高い」。人材の質の高さをベトナムの強さに直結できるよう、周辺国の事業体への研修派遣なども積極的に活用し育成に力を入れる。

商機大きい日系の部品メーカー

生産モデルの絞り込みとともに、コスト面での鍵となるのは部品の現地調達率の引き上げだ。TMVの現地サプライヤーの数は、ティア1(1次下請け)で29社。たとえばタイのトヨタではティア1が100社以上あるとされ、顕著な差がある。現地調達率の差は、ベトナムとタイの自動車市場の規模の差を、そのまま反映している。TMVがベトナム政府に対し、自動車市場を安定的に拡大させる政策の実施を一貫して求めてきたのは、この差を埋めるためとも言える。現地調達率を高めるには、TMV一社の努力では限界があり、足元のマーケットが拡大することが最も重要な要素になるからだ。

一方で木下社長は、17年に稼働予定のギソン製油所(北中部タインホア省)や台湾プラスチック(台プラ)の高炉(中部ハティン省)の例を挙げ、ベトナム国内で鉄やプラスチック樹脂を調達する川上の環境が整いつつあると評価する。また、TMVがティア1に指定する29社には、日系企業だけでなく台湾やタイのサプライヤーも含まれる。タイの業者は地元でトヨタと取引がある企業。ベトナムでも工場を構えているため、TMVが仕入れ先としている。

日系の部品メーカーの中にも、タイ事業を足掛かりにして、ベトナムへの進出を検討する企業は多いとされる。三菱総合研究所は「ベトナムではローカル・外資を含め自動車メーカーが20社ほどあるが、部品供給を担うサプライヤーの規模も技術レベルも将来需要に対し十分ではない」と指摘する。

実際、木下社長は「原価次第ではあるが、日本の企業がベトナムに進出すれば、競争優位に立てるだろう」と予想する。一般的に言って、タイや台湾企業の技術やマネジメントの力量は、ベトナムの地場企業を上回るとされる。それでも日本企業には及ばない点は多く、進出すれば、勝機は大きい。

二輪向けサプライヤーが脱皮も

アジアの自動車産業を長年研究してきた早稲田大学の小林英夫名誉教授は、ベトナムの自動車市場が発展する基盤として、二輪車市場の大きさに着目する。二輪向けに部品を供給してきた企業が自動車向けの部品メーカーとして脱皮できれば、新たな部品の供給源として期待できる。小林教授は「部品の小型化や軽量化は難しいが、大型化や重量化はそれほど難しくない。二輪と四輪では部品は共通ではないし、設備も大型化する必要があるが、可能性は十分にある」と話す。

事実、トヨタが世界で取引するサプライヤーの中には二輪の部品メーカーが事業を拡大し、自動車部品を作っているケースもある。木下社長は「ベトナムの二輪部品メーカーが、四輪の部品製造に向けて追加投資する余力はあると思う。『ヒト・モノ・カネ』でいえば、ヒトの部分、つまりマネジメントが最大の問題になる」と分析する。TMVは二輪向けの部品メーカーを支援することで、国内のサプライヤーを育成することができないか、検討しているという。

1995年設立のトヨタ・ベトナム。年産5万台の能力をフルに活用する戦略だ

 トヨタ・ベトナム

   木下徹社長が語る

          18年以降のベトナム市場

ベトナムへの輸入完成車(CBU)に対する関税率は30%。18年以降はこの関税が撤廃されることで、ベトナムが輸入する自動車の価格は下がり、市場は拡大するでしょう。ただ、市場が拡大した分がすべてCBUであれば、ベトナム国内に生産拠点を置くメーカーにとっては都合が悪い。18年以降も一部の部品には関税がかかるので、国産車が差別されてしまう「逆差別」の状況になることも考えられます。国内のメーカーはベトナム政府に対して、輸入車との実力差を埋められるような措置を取るよう、要望を出しているところです。

ベトナムの自動車市場は16年に30万台を達成し、政府は35年にこれを150万台にする目標を掲げています。一般的に、国の1人当たりの国内総生産(GDP)が3,000米ドルを超えるとモータリゼーションが始まるといわれます。現状では、ベトナムは2,000米ドル程度。都市部ではすでに3,000米ドルを超えているといわれていますが、本格的なモータリゼーションには至っていない。22〜23年あたりに、市場の拡大は加速するとみています。ハノイとホーチミン市ではすでに渋滞が激しくなっているので、周辺に市場を広げる必要はあるでしょうね。ベトナム政府には、この点も踏まえてインフラ整備を急いでほしいところです。

ベトナムは人口が約9,400万人と規模が大きく、市場が拡大する可能性は高い。一方で、不安要素と考えているのはすでに高齢化が始まっているのではないかという点です。世界的にも、タイのように先進国になる前に息切れして高齢化するケースが出ていて、ベトナムもその懸念がある。市場の将来を見通す上で、大きな不確定要素です。

政府の目標通り、市場が100万台を超えることになれば、自動車メーカーにとっては「現地で作った方が安い」という状況になっているはずです。ベトナムで車を作るという選択をした企業が有利になるわけですから、トヨタとしては、それを期待しつつ、今できることを全力で頑張っていきたいと思います。

  三菱自の現地生産、今年は倍増へ

           越の先例となるフィリピン

ベトナムの先行指標とされるのがフィリピンだ。フィリピンはタイやインドネシアなどと共に、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内における輸入完成車(CBU)関税を2010年に撤廃している。ベトナムと同様、自動車の販売台数の成長は著しいが生産台数の規模は小さく、産業の集積もタイやインドネシアのようには進んでいない。このため、その需要は主に輸入車で賄われ、販売台数に輸入車が占める比率は7割に達しているとされる。ただ、フィリピンでは自動車の現地生産を後押しする「包括的自動車産業振興戦略(CARS)」プログラムが政府により進められ、トヨタ自動車と三菱自動車の2社が現地生産を加速しようとしている。

  

フィリピンの自動車の販売台数と生産台数の推移

これまで自動車関連メーカーはフィリピンに見切りをつけて撤退、または事業を縮小してきた。米フォード・モーターはゼロ関税化後の12年にフィリピン工場の閉鎖を決定。ホンダは同年にセダン「シビック」の現地生産をやめることを決めた。ホンダ系部品メーカーのケーヒンも当初予定より生産台数が伸びないとして子会社を10年に清算していた。

こうした中で、現地生産に積極的なのが三菱自だ。現地法人のミツビシ・モーターズ・フィリピンズ・コーポレーション(MMPC)の設立は1963年で、現地で長い歴史とブランド力を持つ。同国での市場シェアはトヨタ車に次ぐ約2割で、三菱自の他国市場と比べて大きい。三菱自は2014年にラグナ州サンタロサにあった旧フォード工場(年産台数5万台)を取得すると発表し、15年に同工場での生産を開始。14年には現地のトランスミッションメーカーのエイシアン・トランスミッション(ATC)も買収した。当時は政府の自動車産業振興策の発表が遅れ、先行きが不透明だっただけに、三菱自の積極的な姿勢がうかがえる。

三菱自はこれまで小型トラック「L300」とアジア・ユーティリティー・ビークル「アドベンチャー」の2車種を生産し、16年のフィリピンでの生産台数は前年比46%増の計2万2,008台だった。

自動車産業振興策の柱となるCARSプログラムは15年6月に公表され、一年後の16年6月にトヨタ自動車と三菱自が登録した。CARSでは、3社・3車種を対象に6年間で計270億ペソ(約600億円)の税優遇が付与され、認定車種には6年間で20万台以上の生産と一定規模以上の投資が求められる。生産台数の条件が厳しいことから、残り1枠が空いている状況となっている。

三菱自は今年2月、フィリピンで初めて同プログラムの認定車として小型セダン「ミラージュG4」の生産を開始した。5月にはハッチバック「ミラージュ」の生産も始める。今年はこの2モデルを計2万台生産し、現地生産台数を合計で前年比約2倍で過去最高となる4万2,000台に引き上げる計画だ。

一方でトヨタは小型セダン「ヴィオス」のCARS認定モデルの生産を来年半ばに開始する予定となっている。

輸入から現地生産に切り替えた三菱自のミラージュG4

 部品産業の厚みが出て、
    
        良い循環ができてくる

  ミツビシ・モーターズ・フィリピンズ・コーポレーション

           加藤 芳明 社長

――生産を開始したミラージュの販売の出足は

2月末の記念式典をさまざまな媒体に取り上げてもらって話題は提供していると思いますが、販売につなげていくのはこれから。タイからの輸入車を現地生産車に切り替えたので、国産を前面に打ち出してプロモーションしていきます。

現時点で現地生産によりコストが大きく下がるわけではないので価格は変えませんが、後々のインセンティブや現地調達率の引き上げ、部品産業の成長により、今後コスト競争力はついてくるでしょう。

――旧フォード工場を購入して生産能力を拡大した

歴史的に新興国では自動車産業の発展の過程で優遇政策が出されてきたので、フィリピンでもという期待がありました。当社の旧工場は周囲が住宅街になり、もともと拡張できる場所を探していたところ、フォード工場の売却とタイミングが合いました。

フィリピンの新車市場は2020年に50万台に拡大すると言われていますが、今の勢いならその前に到達できるでしょう。タイは人口が約7,000万人で80万〜100万台の市場があります。一方、フィリピンの人口は1億人で中間層も増え、市場は当面、拡大基調にあるとみています。また当社は特にASEANに注力しており、中でもタイとインドネシア、フィリピンを重要視しています。フィリピンでは歴史的にシェアが高いので、さらに販売と生産を強化していきます。

CARSプログラムは、部品産業を育てたいという政府の意向に共感し、自動車製造業の発展に寄与したいと思い参加しました。

――タイとインドネシアで作って輸出する選択肢もあった

タイには年間50万台規模の工場があり、ミラージュやピックアップトラックの生産拠点になっています。インドネシアも新しく工場を作って4月に稼働します。同じクルマを3カ所で作るというのは非効率的なので、これからはその土地にあったクルマを作っていくべきというのが基本的な考え方です。フィリピンではミラージュのような小型乗用車が急成長しています。

ミラージュは国内向けに生産を始めましたが、将来的に輸出したいという思いがあります。品質やコスト、輸送で高いレベルが求められますが、今後の生産でその実力を示せれば可能性はあります。

――今後フィリピンを生産拠点としてどうみるか

CARSプログラムによって生産台数が増え、部品産業の厚みも出てくるでしょう。そうなれば、部品メーカーの進出もあり得ますし、産業にとって良い循環ができてきます。今の段階で言えるのは、産業は確実に成長するということ。現地で調達できる部品の数も増え、質も向上する。新しい車種を投入したり、新たな生産拠点を設けたりするメーカーが出てくる可能性もあります。

――今後の販売目標は

台数は毎年過去最高を更新していますが、競争が激化し、残念ながらシェアは下がっています。われわれが商品を持っていないセグメントが伸びているのも要因ですが、昨年は他社の攻勢に後手になりました。今年は国産ミラージュを原動力に前年比約2割増の7万5,000台を目指します。シェアは現在15%台ですが、20年までに20%に回復させたい。ミラージュの次の一手は販売網の強化です。国内のディーラー数を現在の50店から20年に70店まで増やします。顧客満足度を高め、買い換え需要も確実に取り込んでいきます。

このトピック、こう読みます

2022年には主要6カ国の新車販売規模が日本を上回るとも予測される東南アジア諸国連合(ASEAN)。NNAが日々伝える自動車関連のニュースを基に日本政策投資銀行、フロスト&サリバンの専門家が分析した。

NNA POWER ASIA 2017年2月1日付、タイ

1、17年新車市場は80万台に回復へ

トヨタ自動車のタイ法人、タイ国トヨタ自動車(TMT)は1月31日、首都バンコクで年初恒例の記者会見を開き、同国の2017年の新車市場が前年比4.1%増の80万台になるとの予測を発表した。16年は年初と年末の低迷が響き、3.9%減の76万8,788台と4年連続の縮小だった。トヨタは、今年の乗用車市場が回復すると見込み、5年越しの販売上乗せを狙う。TMTの棚田京一社長(当時)は「16年はタイの自動車業界にとって最も困難な年となった」と総括。市場は昨年に底を打ち、今年に浮上し始めるとの見解を示した。

塙 賢治 氏

視点 塙賢治 はなわ・けんじ

日本政策投資銀行 産業調査部課長。96年東大法卒、旧三和銀行入行。02年日本政策投資銀行入行後、調査部、政策企画部、企業金融第1部などを経て14年より現職。自動車セクター担当歴10年超。素材や一般機械など製造業全般も担当する。

タイの新車販売は5年ぶり増加への期待が高まる。初めて自動車を購入する人を対象にした11〜12年のファーストカー減税措置で購入した車両の転売禁止期間が終わり更新需要が出てくること、日系の完成車各社が相次いで新モデルを投入することが後押しする見込み。ただ、前国王死去を受けた服喪期間中の増勢は限定的となる可能性もある。

ピーク時の144万台からすると80万台レベルはまだ本格回復とは言えない。しかし、米国の保護主義化などに伴い新興国経済の先行き不透明感が強まる中、底入れ感の出てくるタイ市場のポテンシャルは注目されよう。8割超のシェアを持つ日系も期待を寄せている。

消費者ニーズは多様化している。農村部ではピックアップトラックが売れるのに対し、都市部ではエコカー政策対象車の小型セダン比率が高まり、デザイン性を重視したスポーツタイプ多目的車(SUV)や高級車市場も徐々に拡大中のようだ。ASEANの新車販売は、好調が続くフィリピンとベトナム、回復途上のインドネシア、回復が見込まれるタイ、不振が続くマレーシア、とまだら模様。売れ筋車種も国により異なる。増勢に向かい、ニーズが多様化するASEAN市場への細かなケアは一段と重要になる。

NNA POWER ASIA 2017年2月1日付、インドネシア

2、日系大手3社、16年通年はいずれも2桁成長に

ンドネシアに展開する大手日系自動車メーカーの2016年通年の販売台数(ディーラーへの出荷ベース)が明らかになった。大手3社の販売台数は、いずれも2桁の成長を達成した。NNAによる在インドネシア日系自動車メーカーへの問い合わせと、インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)の統計によると、販売台数でトップだったのは、トヨタ自動車が前年比19%増の38万2,651台だった。これにホンダが25%増19万9,364台、ダイハツ工業が13%増の18万9,683台と続いた。

林 更紗 氏

視点 林更紗 はやし・さらさ

フロスト&サリバン ジャパン モビリティ部門リサーチアナリスト。自動車部品メーカーにて、乗用車および商用車メーカーに向けたセールス・マーケティングを約5年間担当。16年より現職。主に日系自動車メーカーに向けた自動車市場のリサーチ・コンサルティングを行う。

16年のインドネシアの乗用車市場は国内の経済成長や消費者マインドの改善、購買力の増大に伴う積極的な消費が需要をけん引した。またトヨタの「カリヤ」やダイハツの「シグラ」などの新モデルやフェイスリフト(マイナーチェンジ)モデルのリリースにより販売は好調だった。政府推奨の低燃費小型車「ローコスト・アンド・グリーンカー(LCGC)」の販売が大幅に増加し、スポーツタイプ多目的車(SUV)や多目的車(MPV)がそれに続いている。

16年の商用車市場の減退は産業全体の輸出の減少や物価の下落、コモディティー価格の下落に起因している。三菱自動車が商用車市場でのトップシェアを占め、日野自動車といすゞ自動車もシェアを伸ばしている。

弊社の予測では、17年のインドネシア自動車市場は、好調な消費動向や投資の増加、政府支出の増加および輸出部門の改善によって、前年比5%増の111万台に成長する。経済成長に伴い消費者マインドも改善し、LCGCやSUV、MPVも好調が続くだろう。インドネシア通産省は17年の輸出額は5.6%増と予測しており、商用車の需要増加も見込まれる。

NNA POWER ASIA 2017年2月20日付、フィリピン

3、初の政府優遇認定車、三菱自が生産開始  

三菱自動車は2月17日、フィリピンで小型セダン「ミラージュG4」の生産を始めたと発表した。フィリピン政府が税優遇を付与する「包括的自動車産業振興戦略(CARS)」プログラムの認定車種が生産されるのは初めて。同社は5月からハッチバックの「ミラージュ」も生産する予定だ。現地法人の三菱モーターズ・フィリピンズ(MMPC)の生産拠点となるラグナ州サンタロサの工場は年間5万台の生産能力を持つ。敷地面積は21.4ヘクタール。MMPCには昨年12月時点で1,400人が勤務する。

Mohd Fahrurazi 氏

視点 Mohd Fahrurazi モド・ラージー

フロスト&サリバン モビリティ部門シニアコンサルタント。10年以上の自動車業界経験を持ち、自動車産業に関わる政府の政策や製品展開に特に強みを持つ。

フィリピンの自動車産業は2016年に2桁成長を遂げ、高成長中だ。経済成長と所得水準の向上により、公共交通システムの整備が追い付かず、自家用車の需要が急速に高まっている。半面、販売台数の増勢と、フィリピン国内での自動車生産の伸びは同期していない。過去25年間で完全組立生産(CKD)車の割合は95%から約30%に減少し、政府がCARSプログラムを導入する引き金となった。

ミラージュの現地生産により、同国の自動車製造業は活性化すると期待される。CARSプログラムはバンパーなど必要とされる部品を現地生産することを条件としており、地元業者や部品メーカーの新たな成長を促すだろう。製品デザインや設計といった高いスキルを持つ労働者が必要となるため、自動車産業に高い付加価値をもたらすはずだ。

現地で生産することは自動車のコストの大幅な引き下げにもつながる。CARSプログラムでは車両1台につき約1,000米ドルの補助金を受けられるため、MMPCはミラージュの価格をより競争力ある水準に設定できるだろう。フロスト&サリバンは、ミラージュがサブBセグメントにおいて今後も首位の座を維持すると予測する。

CARSプログラムでは、MMPCは今後6年間で20万台のミラージュを生産することが求められる。これは毎年平均3万台余りを生産する計算だ。フィリピン国内の需要が現状、年間2万台以下という状況を踏まえると、生産台数が需要を上回るとも予測される。これら余剰分を輸出することにより、フィリピンはASEAN域内外の生産ハブになる可能性もある。

NNA POWER ASIA 2017年2月24日付、ベトナム

4、プジョー、SUV 2モデルの組み立て開始へ 

フランスのプジョーは2月22日、チュオンハイ自動車(Thaco)と提携し、ベトナムでの現地生産を強化すると明らかにした。10月からThacoの中部クアンナム省の工場で、プジョーのスポーツタイプ多目的車(SUV)2種を組み立て生産する計画だ。

塙 賢治 氏

視点 塙賢治 氏

ベトナムは、ASEAN自動車市場の中ではインドネシアとタイの二大国の陰に隠れていたが、足元で販売台数が急伸し、フィリピンとともに「市場」としての注目度が高まっている。一般的に1人当たり国内総生産(GDP)が3,000米ドルを超えると自動車普及率は急上昇するが、同国の所得水準はその近くまで迫っている。さらに1億人弱の人口を有しポテンシャルも高い。本記事のように今後の成長性に着目し完成車生産を拡大するメーカーもある。

ただ、ベトナムは生産国としては岐路に立たされているようだ。2018年以降のASEAN域内からの輸入車の関税完全撤廃により、輸入車の価格低下が見込まれることから、一部車種では同国での完全組立生産(CKD)から完成車輸入(CBU)に切り替える動きも出てきた。国産車のコストダウンには部品メーカーなどの裾野産業拡大が必要だが、これまでの政府による自動車産業育成・振興策はあまり成果が上がっていない。自動車産業は一朝一夕に集積できるものはなく、完成車メーカーとしてはASEAN生産拠点再配置の中でベトナムをどう位置付けるか悩ましいところだろう。

   多文化受け入れる土壌強みに

   マレーシアのゲーム業界

石油やパーム油、天然ゴムなど労働集約型の一次産品への依存から脱却するため、産業の高付加価値化を急ぐマレーシア政府が、昨今注力しているのがゲーム産業の育成だ。東南アジアのゲーム開発拠点としては、長らくシンガポールが先頭に立っていたが、コストの上昇で周辺国への移転が進んでいる。多文化・多民族国家であるマレーシアは、欧米・アジア双方のコンテンツを受け入れる土壌を持つことを強みに、産業の発展を目指す。(降旗愛子=文・写真)

マレーシアゲーム業界の現況と展望について語ったMDECのハスヌル・ディレクター

マレーシア国内のデジタル産業の育成を支援するデジタル経済公社(MDEC)のディレクターで、長年国内のゲーム業界に関わってきたハスヌル・サムスディン氏によると、マレーシアのゲーム産業は20年以上の歴史を持つ。2015年の同国ゲーム産業の規模は3億1,300万リンギ(約84億円)に達し、5年前の11年と比較すると39.9%もの成長を遂げた。

国内のゲーム関連事業者は現在約50社。うち、65.8%がゲームを開発するデベロッパー、8%がゲームを販売するパブリッシャー、残りは双方を兼ねた事業者だ。全体の60%以上が社員数10人以下の小規模スタジオで、50人以上のスタジオは17%のみとなっている。約半数に当たる48%のスタジオが設立3年以内。86.7%がスマートフォンなどモバイル向けのゲーム開発が中心、56%はパソコンゲームの開発に携わっている。ハスヌル氏は「スマホ上でプレーするアプリゲームの広がりもあり、若い小規模スタジオでの開発が容易になっている」と指摘する。

主流は開発アウトソーシング

マレーシアのゲーム産業で現在、主流となっているのが、ゲーム開発の受託ビジネスだ。ハスヌル氏によると、現在マレーシア国内では約700人がゲーム産業に従事しているが、開発受託の大手3社だけでその半数以上を占める。

東南アジアの他国では、欧米圏の英語ゲームが人気タイトルの上位を占めるが、華人系が消費の主流を占めるマレーシアでは、中国語ゲームと英語ゲームが人気を二分する。ハスヌル氏は「洋の東西を問わずコンテンツを理解し、共感できる文化的背景が、開発を請け負う際の強みになる」と話す。

蘭アムステルダムで創業した米ストリームライン・メディアグループは、08年からマレーシアに開発拠点を置いている。マレーシア法人のストリームライン・スタジオは、国内のゲーム開発受託大手3社の一つに数えられる。同社は日系のゲーム開発にも参画しており、これまでスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズやカプコンの「ストリートファイター」シリーズなどの人気タイトルを手掛けた。

開発ハブをマレーシアに移したストリームライン・メディアグループのフェルナンデスCEO

ストリームライン・メディアグループのアレキサンダー・L・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)は、「(08年にマレーシアでゲーム開発を始めた当初)開発者の『原石』だらけだと感じた」と話す。この10年余りでマレーシアの「原石」たちを一人前の開発者に育て上げ、拠点の従業員数も約200人の規模まで成長させてきた。同社で働くスタッフの約半数はマレーシア以外の出身者だという。東南アジアや中東から留学生や労働力が多く集まり、国内人材に限らない優秀な開発者を採用できるのもマレーシアの強みだ。

開発ハブ設立へ

MDECは、25年までにゲーム産業の従事者を1万4,000人まで拡大し、大規模スタジオを5社誘致する目標を掲げている。

その一環として、首都クアラルンプール西部にありストリームラインが拠点を構える複合開発地域「バングサ・サウス」に、マレーシア政府は今年、ゲーム産業の開発ハブを設立する計画だ。IT企業に対する各種優遇制度「マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)ステータス」の付与など、政府による優遇策の他、対米ドルでのリンギ安で事業コストの割安感があることなどを強みに、欧米や日本のゲーム企業の誘致を進めていく。

 開発の国際化、避けて通れず 

今、マレーシアゲーム業界のアイコンとなっているのが、昨年スクウェア・エニックスから発売されたFFシリーズの最新作「ファイナルファンタジーXV」(FFXV)でリード・ゲームデザイナーを務めたワン・ハズメー氏だ。

マレーシアゲーム業界のアイコンとなったハズメー氏(左)。FFXVの発売イベントではサインを求められる

ハズメー氏はマレーシアの大学の在学時に、プログラミングを学ぶ一環としてゲームの制作を開始。その際に、「漢字」を使って敵を倒す忍者ゲームを開発したことが、日本語を学ぶきっかけになったという。ハズメー氏は、日本行きを決めた理由を「日本のゲーム業界が“ブラックボックス”だったから」と話す。日本のゲームがどのように作られているのか実際に目で見て確かめてみたいという情熱に突き動かされ、08年に来日。1年半で鍛えた日本語で企画書を書いて複数のゲーム会社に送り、スクウェア・エニックスに採用された。

ハズメー氏は、「FFほどの人気タイトルなら国際化は避けて通れない」と指摘する。世界で受け入れられるには、さまざまな文化的背景を持つ人々から共感を得ることが必要だ。実際にFFの開発現場は国際化が進み、ハズメー氏の他にもタイ出身のゲームデザイナーが活躍しているという。ハズメー氏は「外国人であるからこそ、新しい要素を提供できる」と確信している。

FFXVの開発でハズメー氏はキャラクターが旅の途中で通過する街やそこで交わされる会話などを制作するチームを率いた。ハズメー氏が携わったことで、作品には「ロティ・チャナイ」(薄焼きパンとカレー)や「サテ」(串焼き)、「チキンライス」などのマレーシア料理が登場する。

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