阿波人形浄瑠璃を現代語で おつる視点の新作

徳島の伝統芸能である阿波人形浄瑠璃。その代表的な演目「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」は、「ととさんの名は十郎兵衛、かかさんはお弓と申します」のフレーズでおなじみですが、「どんなお話か知らない」という人も多いのでは?

8月5日には「傾城阿波の鳴門」を基にした新作浄瑠璃「順礼鶴泪子守唄」が阿波十郎兵衛屋敷で初演されます。「傾城阿波の鳴門」がどんな物語か、新作浄瑠璃をなぜ制作したのかを取材しました。

 ◆「傾城阿波の鳴門」(阿波鳴)とは

「傾城阿波の鳴門」は、歴史的な素材を扱う「時代物」の作品で、阿波徳島藩のお家騒動を描いています。10段で構成されていて、「順礼歌の段」は8段目です。

「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」の一場面

 ◆あらすじ

阿波徳島藩のお家騒動に絡み、主君の宝「国次の刀」が何者かに盗まれました。主の命を受けた十郎兵衛は刀を取り戻すために、幼い娘おつるを祖母に預け、妻お弓とともに名を変え、盗賊に身をやつして大坂(現在の大阪)に移り住んでいました。

順礼歌の段  大坂の家でお弓が一人でいたところ、巡礼姿の女の子が訪ねてきます。お弓は言葉を交わすうち、徳島に残してきた娘のおつるだと分かります。おつるを危険に巻き込まないために名乗らず、国元に帰るよう諭しますが、おつるが去った後に思い直し、慌てておつるの後を追います。】

一方、お弓と別れたおつるは、偶然十郎兵衛と出会います。金に困っていた十郎兵衛は、我が子とは知らず、思わず手を掛けてしまいます。お弓から、巡礼の女の子が幼い頃に別れたきりのおつるだと聞き、亡きがらを前に十郎兵衛とお弓は悲嘆に暮れます。おつるは国次の刀を盗んだ真犯人を知らせる祖母の手紙を持っていました。十郎兵衛夫妻はその手紙を読んで、急ぎ徳島へ帰参し、無事に国次の刀を取り戻したのでした。

 ◆「順礼歌の段」見どころ

「順礼歌の段」は、長年離れて暮らした母子が再開する場面を描いています。おつるから「自分を祖母に預けてどこにいるか分からない両親を探して西国巡礼している」と聞いたお弓は、両親の名を尋ねます。「ととさんの…」という有名なせりふは、その問いに答えたものです。

おつるは「同じ年頃の子どもが母親に、髪を結ってもらったり、抱かれて寝たりするのがうらやましい」「一人旅なので宿に泊めてもらえずに野山で寝たり、軒先で寝てたたかれたりすることもある。親がいればこんなつらい目に遭わないだろう」と語り、両親に会いたいと切々と訴えます。

お弓は思わず名乗ろうとするものの、主君のためとはいえ、盗賊として追っ手から逃れる身。おつるを巻き込みたくないと、悩みに悩んだ末、国元へ帰るように諭しておつるを帰し、泣き崩れます。おつるの両親を恋う気持ち、お弓の我が子を思う愛情と葛藤が、臨場感たっぷりの語りと三味線で表現され、胸を打ちます。

◆なぜ新作「順礼鶴泪子守唄」を作ったのか?

時代物は、歴史的な題材で武士道や忠義を描いているため、現代の感覚では理解しにくい部分があります。「傾城阿波の鳴門」も、いとしい我が子と離れ、盗賊になってまで主君の命令に従おうとする十郎兵衛とお弓の心情には、なかなか共感できないでしょう。

新作「順礼鶴泪子守唄」はおつるが主人公

そこで、現代の人にも共感しやすい物語にするために制作されたのが、おつるの視点で描いた新作浄瑠璃「順礼鶴泪子守唄(じゅんれいおつるなみだのこもりうた)」です。

原作・脚本は三好市出身の人形遣い勘緑さん。物語は、徳島を出発したおつるがさまざまな苦労をしながら大坂までたどり着き、母と同じ子守唄を歌う温かい女性と言葉を交わす様子を描いています。竹本友和嘉さん(太夫)と鶴澤友勇さん(三味線)が作曲した現代語の浄瑠璃と、講談師の玉田玉秀斎さんによる講談で進行。徳島の名産品やよしこのが登場するほか、『ととさんの…』の阿波鳴の名場面も盛り込んでいます。

「順礼鶴泪子守唄」の稽古

勘緑さんは「『阿波鳴』の世界は、忠義や子殺しという現代の人には理解しにくい部分が描かれている。親子が世間に翻弄(ほんろう)されながらも、互いに思い合う気持ちをクローズアップし、現代の新たな定番演目として親しんでもらえたら」と語っています。

8月5日に阿波十郎兵衛屋敷で初演されるのを前に、稽古にも熱が入っています。人形を遣うとくしま座は、勘緑さんの指導の下、振り付け・演出にも初挑戦しています。

勘緑さん(右)の指導の下、稽古をするとくしま座のメンバー

おつるの足を担当する座員最年少の阿部みちるさん(11)=小学6年=は、幼い頃から家族と農村舞台などに足を運び、人形遣いに憧れて2月にとくしま座に加わりました。

公演に向け、おつるのしぐさを自分でやってみるなど、自然な足の動きの研究に余念がありません。「普段の人形浄瑠璃は言葉が難しくて友達はほとんど見ないけど、今回の物語は分かりやすいと思います。足の動きは難しいけど、練習して上手に遣えるようになりたい」と話していました。

新作浄瑠璃の公演は8月5日午後6時から。問い合わせは阿波十郎兵衛屋敷〈電088(665)2202〉。

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