阿波市市場町上開ノ口に岩山を掘削して造った岩滝用水と呼ばれるトンネルがある。江戸時代後期の一八三〇年ごろにできた総延長約五百メートルの農業用水だ。
阿讃山脈から流れる日開谷川の南西部に広がる上喜来地区は、当時、干ばつや洪水被害に苦しめられていた。そこで、日開谷川に堰(せき)を設け、地区と川の間にある岩山を掘り抜いて水を引き入れた。
松永佐太郎ら地元の富農四人が計画し、農民が資金を出し合った。用水の恩恵を受けたこの地区では米や麦などが安定して収穫できるようになり、干害に悩む地域からうらやましがられた。
石工と呼ばれる職人がのみと金づちだけを使って掘り抜いたトンネル内は、横幅が二-四メートルで高さは一-三メートル。取水口から約五十メートルおきに六カ所、土砂を取り出す横穴があるほか、掘る方向を間違えたためにできた行き止まりもある。
文献が残っていないため、完成させるまでどれほどの年月がかかったか、建設費がどのくらいだったかは不明。
昭和に入ると吉野川の水を引き入れた阿波用水や北岸農業用水ができ、岩滝用水の重要性は下がったが、今なお地域に欠かせない水路として重宝されている。【写真説明】自然の洞くつを思わせる岩滝用水の内部=阿波市市場町