原因にどう対応したかで結果は良くもなれば、悪くもなる。危機に陥って最善を尽くすのは当然だが、それなら陥る前に最善を尽くすべきではないか
世界的に巨額の債務は依然減っていない。金融危機が再来する恐れがある。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ前総裁が、そう警鐘を鳴らす
100年に一度の危機と騒がれ、世界経済を底なし沼に陥れたリーマン・ショックから10年になる。米ウォール街はトランプ政権下で息を吹き返しつつあるが、強烈なあの痛みを忘れてはいまいか
喉元過ぎれば熱さ忘れる、のような市場に警告を発してきたのは、経済学者として知られた宇沢弘文さんだ。人間が豊かに暮らしていくために、経済学に何ができるか。それを追究した姿が講演などをまとめた「人間の経済」(新潮新書)にも残る
長女で内科医の占部まりさん=宇沢国際学館代表取締役=が思い出を一つ、教えてくれた。ある取材で「リーマン・ショックが底を打った感がありますが」とインタビュアーが言った途端、烈火のごとく怒りだし「一般市民の多くの苦しみは続いている」と語ったそうだ
自然環境や教育、医療、インフラなどを「社会的共通資本」と捉え、それを大切にと説いた宇沢さん。「人間の心を大事にする経済学の研究」で得たその箴言(しんげん)は市場万能主義の世を憂う。