北方領土問題を巡る日本とロシアの溝は、やはり深い。

 安倍晋三首相がロシア極東ウラジオストクで、プーチン大統領と通算22回目の会談を行った。

 両首脳は、北方領土における海産物養殖など5項目の共同経済活動実現に向けて、ロードマップ(行程表)に合意した。海産物養殖はウニを、温室栽培ではイチゴを対象に関連作業を進める。観光ツアー開発については、パッケージツアーを作成する。

 共同記者発表で、両首脳は行程表の詳細な中身は明らかにしなかったが、10月初めに日本が現地に調査団を派遣することで一致した。

 一歩前進とは言えるが、共同経済活動を巡る日ロ間の協議は遅すぎないか。

 両首脳が共同経済活動の協議を開始することで合意したのは2016年12月だった。1年9カ月になるのに、実現の道筋がはっきり見えてこないのはロシア側に問題があるからだ。

 日本の狙いは、共同経済活動を、北方領土問題を含む平和条約交渉進展のてこにすることである。

 ところが、ロシアは4島が自国領だとする姿勢を変えていない。双方が法的立場を損なわない「特別な制度」を北方領土に導入することにもロシアは難色を示している。

 日本が4島でロシアの主権を容認できないのは当然だ。人やモノの行き来には特別な制度が欠かせないだろう。

 ロシアのペースで北方領土の開発が進んでいることも疑問だ。昨年には色丹島に経済特区を設置し、日本が反対する第三国の進出を容認した。

 安全保障の面でも、ロシアは冷戦後最大規模の軍事演習「ボストーク(東方)2018」を極東やシベリアで実施し、中国軍も初参加した。中国との軍事的連携を誇示し、日米同盟をけん制している。

 ロシアは北方領土や千島列島を軍事的要衝と位置付け、択捉島にミサイルを配備するなど実効支配を強めてきた。

 安倍首相が領土問題でプーチン氏から譲歩を引き出すのは容易ではないが、膠着(こうちゃく)状態を打開しなければならない。

 プーチン氏は平和条約交渉に関して記者発表で「双方が受け入れ可能な解決策を模索する用意がある」と話し、首相も「私たちの手で必ず問題に終止符を打つ」と述べた。

 驚いたのは、その後のプーチン氏の発言だ。安倍首相も出席した東方経済フォーラム全体会合で、平和条約について「年末までに無条件で締結しようではないか」と呼び掛けた。平和条約締結後の方が、北方領土問題の解決は容易になるとの考えも示した。

 真意は分からないが、領土問題の棚上げを狙い、日本の反応を探った可能性もある。

 菅義偉官房長官は「北方4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する日本の方針に変わりはない」と述べた。

 安倍首相はプーチン氏に振り回されることなく、日本の立場を強く訴えるべきだ。