この分では、新基地建設を巡る論戦を聞くことができないまま、有権者は30日の投開票日を迎えることになりかねない。工事が、海の埋め立て直前にまで進んだ今だからこそ、候補者は考えをぶつけ合うべきだ。

 沖縄県の翁長雄志知事の急逝に伴う県知事選である。安倍政権の全面支援を受ける前宜野湾市長佐喜真淳氏と、自由党前衆院議員玉城デニー氏による事実上の一騎打ちとなっている。

 最大の争点は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非だ。しかし、これまでのところ議論はかみ合っていない。

 佐喜真氏が「辺野古隠し」ともいえる戦術をとっているためだ。

 演説などでは「対立から対話、県民の暮らしが最優先」とし、政府との交渉を通じて予算を獲得していくと強調する。普天間の早期返還などで基地負担を軽減するとも述べるが、辺野古移設の是非については明言を避けている。

 保守層にも移設反対の人はおり、「辺野古に触れるほど票が逃げる」(陣営幹部)との判断だ。移設が争点となった2月の名護市長選では、政権が支援する新人が「辺野古隠し」を徹底し、勝利を収めた。先例を踏襲しようというわけである。

 選挙戦術としては効果があるのかもしれない。ただ今回は国との対決色を鮮明にしていた翁長知事の後任を選ぶ選挙である。その遺志を継ぐとして先月末、県は辺野古埋め立ての承認を撤回している。

 当選すれば、県の姿勢を180度転換する可能性がありながら、移設の是非を明らかにしないのは、有権者に対して不誠実ではないか。

 一方の玉城氏は「イデオロギーよりもアイデンティティーを大事にしようという翁長氏の遺志を受け継ぐ」とし、「弔い合戦」に持ち込みたい意向のようである。

 「辺野古に新しい基地を造らせない」と繰り返すものの、主張は多分に抽象的だ。県が承認撤回という「最後のカード」を切った今、移設阻止をどう実現するか。県民の間には、「国には勝てない」との声も存在する中、具体策が見えてこない。

 足元も揺らいでいる。前回知事選では、保革を超えて結集し、翁長氏を当選させた「オール沖縄会議」は、革新色が強くなったとの理由から、有力企業や財界人の脱退が相次いでいる。

 知事選の結果は移設の進展を大きく左右する。自民党総裁選直後の重要選挙を落とせば、政権の打撃になるとの危機感もあり、大物を次々投入するなど、政権側はなりふり構わず佐喜真氏を支援している。「弔い」だけで勝てるような甘い状況ではあるまい。

 普天間返還の日米合意から22年。基地を巡り苦悩する沖縄の現状には、過度の集中を押し付けてきた「本土」の側にも責任がある。自戒しつつ選挙の行方を見守りたい。