【上】三田文学新人賞で第3席の奨励賞を受賞した藤代さん=小松島市神田瀬町の自宅【下】藤代さんの受賞作が掲載されている「三田文学」春季号

【上】三田文学新人賞で第3席の奨励賞を受賞した藤代さん=小松島市神田瀬町の自宅【下】藤代さんの受賞作が掲載されている「三田文学」春季号

 純文学作家の発掘を目的とした第22回三田文学新人賞で、小松島市神田瀬町の藤代淑子さん(68)の小説「あるく女」が第3席の奨励賞を受賞した。受賞作は季刊誌「三田文学」(三田文学会刊)春季号に掲載されており、藤代さんには夏季号への執筆依頼も寄せられている。

 「あるく女」は原稿用紙72枚分の短編。主人公の女性は定年後、趣味で文章教室に通いながら夫と平凡な暮らしを送っていた。近所で見掛ける灰色の服を着た女性に夫が興味を抱いたことで、夫婦の間に不穏な空気が流れる。浮気を疑いつつ、それを文章教室の課題のモチーフにして小説を書いているうちに、現実と小説の境界が曖昧になる、という物語。

 全国から121点の応募があり、作家のいしいしんじ氏、佐伯一麦氏ら4人が選考。第1席の新人賞は該当がなく、第2席の佳作が1点、審査員の名を冠した奨励賞が2点選ばれた。

 佐伯一麦奨励賞に選ばれた「あるく女」は「作者の書きようには、冴えた目で設計図面を検分する、ベテラン建築士のおもむきがある」(いしい氏)、「日常の改変をうながす力があり、日常性というものへの洞察が感じられる」(佐伯氏)などと評された。

 長年保育士を務めた藤代さんは退職後の2011年春に知人に誘われ、徳島市の四国大で開かれていた「小説実作講座」(現在は休止)を受講し、小説を書き始めた。年に2、3作を仕上げ、文学賞に応募している。

 藤代さんは「これまでは書くことを楽しんでいたが、受賞したことで責任を感じるようになった。賞を取ったことを無駄にしないよう、2作、3作と書いていきたい」と話している。