ヒガンバナは不思議な花だ。秋の彼岸が近づくと、田んぼのあぜや日当たりのいい川の堤防などで茎が伸び、葉が出る前に真っ赤な花を一斉に咲かせる。
墓地で見る機会が多い上、鱗茎(りんけい)に毒性のアルカロイドを含むため、不気味な花として嫌われがちだが、最近は同属の園芸品種リコリスとともに花の美しさを愛でる人も多くなっている。
江戸時代には鱗茎を砕き、水にさらしてデンプンを取って飢饉(ききん)対策に用いられた。モグラ、ネズミよけにも活用され、田畑や墓地に植えられて全国に広まった。毒を持つが有益な植物でもある。
繁殖力が強く、生育条件が合えばどんどん増殖する。そのため群生になりやすく、県内でも大量のヒガンバナが咲き誇る場所は少なくない。
勝浦町星谷の群生地を訪ねた。勝浦川の堤防の全長100メートル、幅5メートルほどの範囲にヒガンバナが密集する。農家の人が下草刈りを繰り返す中、自然に数が増えていった。開花のピーク時には、真っ赤なじゅうたんを敷き詰めたかのようになる。
近年はヒガンバナの名所として知られるようになり、赤一色の光景が本格的な秋の到来を実感させてくれる。